第13話:亜晶を知る者
龍人族の朝食は川魚や地場産の野菜を使った質素ながらも美味しい料理ばかりだった。
が、その全てにどっさりと唐辛子がかかっている。
「いやあ、あれ以来すっかりこの唐辛子というのに嵌ってしまってな。今ではドライアドに契約栽培してもらっているのだよ」
ラングは豪快に笑いながらその激辛料理を口に運んでいる。
アマーリアやフラム、キリは平気な顔をして食べているけどソラノとリンネ姫は必死な顔になっているぞ。
正直これは俺にも辛すぎる。
魔族の激辛耐性恐るべし。
ともあれ無事に食事も済み、いよいよ会合を開くことになった。
「まずはこれを見ていただきたい」
リンネ姫が亜晶を取り出した。
「ふむ、これはなんとも不思議な色合いをした石だ」
ラングはためつすがめつしながら興味深そうに亜晶を見ている。
「それは我が国では亜晶と呼ばれるものです。このテツヤによるとこれは魔獣の一部だそうなのです。魔族でも特に歴史ある一族の龍人族ならば何か知っているかと思い知恵をお借りに来た次第です」
リンネ姫がそう言ってお辞儀をした。
「申し訳ないがこのような石は初めて見るな。流星石という星が落ちた場所で採れる石に似ているところもあるがそれとも違うようだ」
ラングはそう言って部屋の奥から箱を持ってきた。
「これが流星石だ」
そう言って取り出した石は確かに亜晶とよく似ていた。
「触ってみても?」
ラングに尋ねてから俺はその石を持ってみた。
「どうだ?」
「いや、これは違うみたいだ。これはテクタイト、いわゆる地上に落ちてきた隕石の欠片だよ」
ラングが持っていたのはガラス状隕石であるテクタイトだった。
よく似てはいるけど亜晶とは別物だ。
「そうか…」
リンネ姫が残念そうに首をうなだれた。
「ラングさん、亜晶は重要な魔法素材になるものなんですが、こういうことに詳しい方を知りませんか?俺たちは亜晶の正体をつきとめにきたんです」
「ふーむ…あいにくだが我々では力になれそうにないな。龍人族はそういった魔導研究にはとんと疎い種族であるからな」
「…そうですか。では他にそういうことに詳しい種族は知りませんか?なにか噂だけでもいいんですけど」
俺の言葉にラングの顔がピクリとひきつった。
「こういうものに詳しい種族か…いることにはいるのだが…」
何故か妙に煮え切らない態度だ。
「ラング様、その方たちを紹介してはくれませぬか。ラング様にご迷惑はおかけしないことをお約束します!」
「いや、別に教えるのはいいのだが…」
「叔父様、それはひょっとしてエルフ族のことですか?」
アマーリアの言葉にラングが困ったように頭を掻いた。
「エルフ族?」
その言葉を聞いてリンネ姫が目を大きく見開いた。
少し尖り気味の形のいい耳が微かに揺れる。
そういえばリンネ姫はクォーターエルフだったっけ。
「エルフ族は我が龍人国の隣にあるワールフィアの中でも大国に数えられている一つだ。ただ、我々龍人国とは折り合いが悪くてな」
アマーリアがひそひそ声で教えてくれた。
「エルフ族は尊大な奴らでな。自分達以外の種族を全て劣った下等な者たちと見下しておるのよ。あ…いや、姫殿下の血統を悪く言うつもりはないのだがな」
ラングは吐き捨てるように言ってからリンネ姫を見て慌てて言い繕った。
「いえ、いいのです。私も四分の一エルフ族の血を引いているとはいえ母方の親族とは没交渉でしたから」
リンネ姫が首を振った。
しかしその顔には何とも言えない表情が浮かんでいる。
「ともかく我々龍人族とエルフ族は住む場所が近いこともあって昔から小競り合いを繰り返しておってな。今でこそ不干渉を貫いてはいるが昔はそれこそ出会えば必ず争いになってたくらいだ」
そう言ってラングはアマーリアを見た。
「だから我が姫がエルフの血を引くものに仕えると聞いた時は驚いたものよ」
「私はそういったことにはこだわらないたちなので」
得意そうに言うアマーリアにラングが苦笑を返す。
「つまりエルフ族なら何かを知っているかもしれないけどラングさんから紹介してもらうのは難しいってことですね」
「そういうことだな。我の紹介だなどと言えば余計に話がこじれてしまうだろうよ」
ラングが肩をすくめた。
「…」
「……」
「…………」
辺りを沈黙が覆う。
どうしたらいいんだ。
ヒントは見つかったのはいいけど再び道を見失ってしまった。
「…それでは、私たちがラング様の国を通ってエルフ族に行くことを許していただけませぬか?エルフ族との交渉はこちらで行います。龍人国にはご迷惑をおかけしませんから」
しばらくの沈黙を破り、リンネ姫が意を決したように口を開いた。
「それは構わぬがそれでいいのか?エルフ族は容易に他種族とは心を開かぬぞ。彼の者たちの血を引いている姫殿下と言えどもそう簡単には…」
「いいのです。そのくらいの困難はあって当然です」
リンネ姫は首を振るとにやりとラングに笑いかけた。
「龍血珠は龍の中にしかない、とも言いますし。いえ…失礼しました、龍人族であるラング様の前で言う言葉ではありませんでしたね」
「クク…ハハ、ハハハハハ!」
リンネ姫の言葉に虚を突かれたような顔をしていたラングだったが、やがて肩を揺らして愉快そうに大笑しはじめた。
「これはいい!一国の姫殿下ならばその位の気概がなくてはな!」
「すいません、尊大なエルフの血が流れているもので」
リンネ姫はすまし顔だ。
「アマーリアよ!我が姫君よ、お主は良い主人を持ったな!」
涙を拭きながらラングがアマーリアに笑いかけた。
「よかろう!存分に我が国を通ってエルフ族に行くといい。これは面白いことになりそうだ!」
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