第31話:エイラを助けに
「こんなことをしてる場合じゃねえ!エイラを助けに行かないと!」
「ひいいっ!」
地面に舞い降りた時、人々の叫び声が響いてきた。
見渡すとあたりは暴徒に囲まれていた。
暴徒は手に松明と包丁や鍬、鎌といった武器を手にし、首には
「おい、なんで同じ
「あの人たちは滅火派です!だから創火派の本部であるここを襲撃してきたんです!」
カミウス司祭を肩に抱えた信徒が悲痛な叫び声をあげる。
「これはこれはカミウス司祭殿、ずいぶんとお困りのご様子」
その時人混みが割れ、一人の男が歩いてくるのが見えた。
カミウス司祭と同じように司祭の服を着ている。
額の広い、灰色の髪が頭を薄く覆っている痩せた中年男だ。
「ユニウス司祭!」
カミウス司祭が声を荒げた。
「これは貴殿の手引きなのか!?」
あの痩せ男がエイラを売り飛ばした張本人のユニウス司祭か。
ユニウス司祭はうすら笑いを浮かべながら嘲るようにこちらを見ている。
「ふふん、もはや隠しておく必要もありませんな。ここ
「世迷言を!そのような破滅主義者どもにおもねるなど、恥を知れ!」
「何とでも仰るがいい。神に殉じる者とて力のある方につくのは知恵があるなら当然のこと。どちらにせよあなたの時代は終わりです。おとなしく隠居でもして、今後はハーブ作りにでも精を出すのですな」
「ウルカン様が貴殿らの悪行を見逃すと…」
「なあ、あんた…」
俺はカミウス司祭を手で制して前に出た。
「あんたがエイラって娘を
「なんだお前は。ただの平民が司祭である私に気やすく話しかけるんじゃない」
「聞いてんのはこっちだ!エイラを売ったのはてめえかって聞いてんだよ!」
「そんなことを知ってどうするのだ。まあ確かに私が取り仕切ったのだがな。
声高らかに叫ぶとユニウス司祭は高笑いをした。
「そうかよ」
俺は床を操作してユニウス司祭を目の前まで引き寄せた。
「ひっ!?」
突然のことにユニウス司祭の顔が強張る。
「エイラと約束したからな。お前をぶっ飛ばすと」
俺の拳がユニウス司祭の顔面にめり込む。
「ぶぎゃっ!」
獣が鳴くような声をあげてユニウス司祭が吹き飛んだ。
「な、なにを…」
「てめえがエイラに何をしたのか、胸に手を当てて考えてみるんだな」
鼻から溢れる血を押さえながらユニウス司祭が後ずさった。
「え…ええい、何をしている!この狼藉者をなんとかせんか!」
ユニウス司祭の怒号に周りの暴徒が武器を構えてにじり寄ってくる。
「テェェェツゥゥゥゥヤァァァァァアアアアアアッ!!!!」
その時上空から声が聞こえてきた。
何事かと振り仰ごうとした瞬間、俺の目の前に影が降ってきた。
「ぐべっ!」
カエルの潰れるような声と共にユニウス司祭がその影に踏みつぶされた。
「テツヤ!無事だったか!」
「テツヤ!」
「ご主人様!」
空から降ってきたのはアマーリアだった。
腕にフラムとキリを抱えている。
「アマーリア様、いきなり手を離しては危ないですよ!」
すぐ後にソラノが舞い降りてきた。
ご丁寧に再びユニウス司祭の上に着陸する。
四人に踏みつぶされたユニウス司祭は完全に昏倒していた。
「ん?今何か踏んだか?」
「ソラノ!それにみんなも!どうしてここに?」
「テツヤ!大丈夫だったか!」
四人が俺の周りを囲み、口々にまくしたててくる。
「テツヤを探しにこの町に来たら暴動が起こっていたのだ」
「それにテツヤと帝王の手配書まで!一体何が起きているのだ?」
「町でテツヤを探してたらキツネに会った」
「キツネがご主人様はここにいるって!」
「わ、わかった、わかったから。もう少しゆっくり話してくれ。いや、そんなことをしてる場合じゃねえんだ!」
俺は辺りを見渡した。
俺たちを取り囲む暴徒は今や遅しとその輪を狭めつつあった。
いずれ数にものを言わせて襲い掛かってくるだろう。
「ヘルマ、
「ああ、私が案内しよう」
「助かる!」
「貴様への借りはこの位では足りぬからな。お安い御用だ」
俺はアマーリアたちに振り返った。
「みんな、俺は今からここを離れなくちゃいけない。この場を任せてもいいか?」
何か非常に嫌な予感がする。
今すぐにエイラを助けに行けと俺の勘が告げていた。
「何があったのかはわからんが、それがテツヤの願いであるならお安い御用だ」
アマーリアが手にした龍牙刀を構えて微笑んだ。
「済まない、できればここの人たちは無傷で無力化させてくれないか。暴徒とは言っても他国の人間だから」
「無傷で無力化か」
ソラノの言葉が終るのを待たずに周囲の暴徒がバタバタと倒れた。
「それは私の得意技だ」
何をやったのかはわからないけどおそらく窒息のボレアナと同じように周囲の酸素濃度を減らすかなにかをしたのだろう。
何気に恐ろしい能力だよな。
「鋭意努力する」
「殺さなければいいんだよね?」
フラムとキリもそれぞれ獲物を構えた。
…できるだけ穏便に頼むぞ
「なに、死ななければ私の治癒魔法でどうとでもなる」
アマーリアが暴徒たちを水で窒息させながらにやりと笑った。
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