第37話:咀魔の最期
群がってくる数百数千のツァーニックを切り刻み、叩き潰す、塩に変えて溶かし尽くす。
無駄なことはわかっている、しかし俺たちはその無益とも思える戦いを続けていた。
どれだけの時間闘い続けたのだろうか、やがて増殖していたツァーニックの数が徐々に減ってきた。
数千が数百になり、それが数十に、遂にはただ一人を残すのみとなった。
「ば、馬鹿な、何故余の身体が再生されぬのだ?」
流石にツァーニックも事の異常さに気付いたらしい。その顔に先ほどの余裕はなかった。
「やれやれ、やっと間に合ったみたいだな」
「き、貴様、何をした!何故余の魔力がここまで減っている!」
「なんだよ、本当に気付いてなかったのか?まあそのためにわざと派手に戦ってたんだけどさ」
「なにっ?」
そこでようやくツァーニックは何かに気付いたらしく上を見上げた。
「ま、まさか…貴様…」
「そ、そのまさかだよ。幸いこっちには地中の魔素を使って植物を育てることができる
俺はそう言って上を指差した。
「今頃上の城はでっかい木に包まれてると思うぜ。てめえの魔素を肥料にしてな」
そう、ここまでが俺の作戦だった。
外からのレジスタンスの攻撃と俺たちは全て陽動だ。
その隙にフェリエが周囲一帯の魔素を木に吸わせていたのだ。
時間がかかるからそれまでツァーニックの意識をこっちに引き付けておく必要があった。
「あんたの言う通り時間稼ぎをしてその間に仕込みをするいじましい作戦だけどな。土なんて大雑把なところに魔晶を隠していたからじわじわ成長する木には気付かなかったみたいだな」
「グ、グヌウウウ…」
ツァーニックが歯ぎしりをした。
いつの間にか周囲には太い木の根が無数に張り巡らされていた。
フェリエが育てた木がこの深さにまで根を張ってきたのだ。
ツァーニックはじりじりと下がり、やがて壁と同化していった。
「だ、だがそれしきのことでは余は倒せぬぞ。今は力を減らしたがいずれ再び力を蓄えるだろう。その時は真っ先に貴様を殺してやる」
「いや、
そう言って俺は木の根に手をかけた。
「この木はちょっと特製でね。魔力を伝えやすいんだ。で、この木はあんたの隠した魔晶の勢力圏全てに根を張っている」
「…?ま、まさか……!?」
ようやくツァーニックも事態が呑み込めたようだ。
その顔が恐怖にひきつっている。
「もうわかってると思うけどこの根はあんたが隠した全ての魔晶に届いてる。その意味がわかるよな?」
闘いの最中に地中をスキャンし、フェリエが生やした木の根を操作して魔晶に巻き付けておいたのだ。
「待て待て待て待て待て待て待てええええええ!」
ツァーニックが絶叫と共に襲い掛かってきたがもう遅い。
俺が流し込んだ魔力は木を伝わり、その根が絡み取っていたツァーニックの九千九百九十七個の魔晶を一瞬のうちに砕いた。
その瞬間に恐怖と怒りに歪んたツァーニックの顔が硬直し、やがて砂となって崩れ落ちた。
「やったか?」
アマーリアとベルベルヒが駆け寄ってきた。
「ああ、奴は完全に滅んだよ。一つの魔晶も残っていない」
それを聞いて二人はため息とともに座り込んだ。
「ようやく終わったか…」
「つ、疲れた」
「二人ともお疲れ様、おかげで助かったよ」
二人に腕を貸そうとした時、突然地鳴りと共に壁や天井が崩れ出した。
ツァーニックが消えたことにより魔晶の力で支えていた城が崩壊しようとしているのか!
「さっさと逃げるぞ!」
俺は二人を抱えて地上へ舞い上がった。
地上に上がると城は跡形もなく崩壊し、かわりに見たこともないような巨木がそびえていた。
高さは百メートルをゆうに超えるほど高く、幹はちょっとした邸宅なら敷地ごと入ってしまうほどに太い。
「こいつは…凄いな…」
あまりの風景に言葉を失うほどだった。
この木が根を張っていたおかげもあって崩落はさほど酷くなかったらしく、俺たちが戦っていた地下室が潰れるだけで済んだみたいだ。
木の根元には力尽きて倒れたフェリエと護衛についていたソラノ、フラム、キリがいた。
「みんな無事か!?」
地面に舞い降り、倒れ込んでいたフェリエを抱え起こした。
「大丈夫だ」
ソラノが額の汗をぬぐいながら答えた。
「彼女はカーリン殿が持たせてくれた
「う、うう…酷い目に遭いました」
青い顔をしてフェリエが呻いた。
「で、でもおかげでなんとかここまでできました。少しはお役に立てたでしょうか?」
「ああ、奴は倒した!これも全部フェリエのお陰だよ!」
「良かった…」
それを聞いてフェリエが安堵のため息を漏らした。
「しかし凄いな。こんな大木は初めて見たぞ。フェリエの能力はとてつもないな」
「私もここまでやったのは初めてです。でもこれはテツヤさんが根を張る助けをしてくれたおかげです」
「それでも大したもんだよ!フェリエは最高の
俺はフェリエの手を取った。
「あ、ありがとうございます…で、でも、も、もう大丈夫ですので…」
礼を言うフェリエの頬が紅く染まっている。
そこで俺はフェリエをずっと抱き上げていたことに気付いた。
「あ、わ、悪い」
「いえ…」
その時遠くの方から歓声が近づいてくるのが聞こえてきた。
どうやらレジスタンスのメンバーがこちらに向かってきてるみたいだ。
「これで一件落着だな」
天に届きそうな巨木を見上げながら俺は息を吐きだした。
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