第39話:テイマーの最期
「ヒヒッあのご婦人が殺した魔獣は七体、残りはまだ十三体もいますぞ。テツヤ殿に防げますかな?」
テイマーの声を合図に地鳴りのような叫び声が森中に響き渡った。
四方八方からレッサーベヒモスがこちらに向かって殺到してくる。
俺は以前やったように地面を高速回転させて滑るように移動していった。
「ヒヒッ逃げたらこのまま王都に進軍していきますぞ!」
もとより逃げるつもりはない。
俺は移動しながら地面を動かして周りの木を全て脇にどかしていった。
今や俺の周りは広大な平地となり、十三体のレッサーベヒモスが集団で俺を追いかける構図になっている。
これが俺の描いた絵図だ。
振り返り、地面に手を当てる。
「沈め!」
俺の声を合図に俺の前方数百メートル四方の地面が泥地に変化した。
猛然と走ってきたレッサーベヒモスが次々とその泥地にはまり込んでいく。
俺が作った泥地の深さ自体は大したことがない。
せいぜい十メートル程度だ。
しかし人間だって腰まで泥に浸かってしまえば自力で抜け出すのは不可能になる。
泥の粘度にもよるがそれは魔獣と言われるレッサーベヒモスも一緒だ。
「ぶもおおおおおっ!!!!」
「ぶおおおおおおおおっ!!!!」
辺りにレッサーベヒモスも咆哮が木霊した。
しかし抜け出すことはできない。
とりあえずはここで足止めをしておいて、事が片付いたら出してやることにしよう。
「これでこいつらは片付いたな」
「ヒヒッそれはどうですかな?」
俺の独り言にテイマーの声が答えた。
「?」
振り返ると首まで埋まったレッサーベヒモスの傍らにテイマーが立っていた。
「踏み出せ、踏みつけろ、あがきだせ、もがきだせ」
テイマーの声を合図にレッサーベヒモスの額に埋め込まれた宝珠が輝き始め、それに呼応するようにレッサーベヒモスの小さな瞳が凶悪さを増していく。
「ぐおおおおおおおっ!!!!」
今まで以上の雄たけびをあげ、レッサーベヒモスが強引に泥地を抜け出そうと暴れ出した。
他のレッサーベヒモスを踏み台にして脱出を図っている。
「てめえ!魔獣を使い捨てにする気か!」
「ヒヒッそれの何が問題で?私は魔獣使いですよ。魔獣使いが魔獣を使って何が悪いのですか。ヒヒッ」
テイマーがひらりと遠のいた。
数体のレッサーベヒモスが泥から出ようとしている。
「災害級の魔獣、レッサーベヒモスですら私にとっては家畜も同然。これが土属性最高難易度と呼ばれるスキルツリー、魔獣使いの力なのですよ。ヒヒヒッ」
「そうかよ……」
俺はテイマーに向かって歩いていった。
自分の利のために他者を平気で食い物にして、しかもそれが当然だと思っている。こういう奴は大嫌いだ。
泥から這い出たレッサーベヒモスが俺に向かって突進してきた。
「動くんじゃねえっ!」
俺の怒号にレッサーベヒモスの動きが止まった。
額の宝珠による命令と俺の言葉に板挟みとなり、ぶるぶると震えていたが、やがて膝をついてうずくまった。
「ば、馬鹿な!あなたは魔獣使いのスキルを持っているのですか?あり得ない!十年かけて練り上げた私の宝珠に抵抗できるなんて!」
俺は驚愕するテイマーに向かって更に近づいていった。
テイマーの顔に初めて恐怖が浮かんだ。
「く、来るな!この化け物め!」
地面から幾本も槍を作り出し、俺に向かって射出してくる。
しかしその槍は俺が手をかざすと全て塵となって霧散した。
土煙の中から手を伸ばし、テイマーの顔を掴む。
「踏みつけにされるのが当然っていうならお前にもその気持ちを味わわせてやるよ」
「ひいぃぃっ」
テイマーの怯えた叫び声をよそに俺は手を離した。
「?」
何も起こらなかったことにテイマーは困惑したような表情を浮かべていたが、すぐにハッと気づいて踵を返し、逃げ出そうとした。
突然その脚が脛から折れた。
「ひ…ひぎゃあああああっ!?」
何が起こったのか分からず絶叫をあげるテイマー。
「お前の全身の骨のカルシウム密度を半分にした」
「ひ、ひぃいいい」
テイマーは手をついて這いつくばって逃げようとしたが、その腕も指も途中で砕け折れた。
「いぎゃああああああっ!!!!」
のたうち回る事もできるずテイマーは絶叫し、その衝撃であごの骨も砕けた。
俺はそんなテイマーには構わずレッサーベヒモスの頭上に飛びあがった。
額に埋め込まれた宝珠に手を当ててそれを砕く。
全てのレッサーベヒモスの宝珠を砕き、テイマーの呪縛から解放した。
それから地表を操作して埋まっていたレッサーベヒモスを救いだした。
「こいつらは元の密林に帰ってもらう。でもお前に対する恨みは忘れてないみたいだな」
俺の言葉を聞いてテイマーの顔に恐怖が浮かんだ。
「ひいいいいいいいっ」
迫りくるレッサーベヒモスを前にして声にならない叫び声をあげる。
それがテイマーの最期だった。
「しまった!誰の差し金だったか聞くのを忘れていた!」
誰がテイマーをここに差し向けたのか聞かなかったことに気付いたのは南へ去っていくレッサーベヒモスを見送った後だった。
怒りにかられると後先考えなくなってしまうのは俺の悪い癖だな。
しかしここで悩んでいても仕方がない。早いところゴルドに戻らないと。
アマーリアとソラノに渡した指輪の気配は既に感じなくなっている。
何故か非常に嫌な予感がする。
俺は自分の肉体に意識を集中した。
土や岩石を自由に操れるのなら自分の肉体だって操れるはずだ。
空中に浮かぶ様子をイメージする。
ゆっくりと俺の体が宙へ浮いていった。
魔力はかなり使うことになるけどこれなら地面を動かするよりも早く移動できそうだ。
俺は更に高く舞い上がり、北へ向かった。
目指すは王都ゴルドだ!
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