第38話:魔獣使いテイマー
「テツヤ!」
アマーリアが叫んだ!
今は俺に抱えられて空を飛んでいる最中だ。
「私もいますよ」
もう片側には同じように抱えられたソラノがいる。
「ソラノ、距離をとって着地してくれ」
俺たちはレッサーベヒモスから少し離れた森の中に着地した。
しかしレッサーベヒモスは森を破壊しながらこちらを探している。
いずれ見つかるのは時間の問題だろう。
「どうしてここに?」
着地した途端、アマーリアは地に膝をついた。
どうやら体力は限界にきているようだ。
「あんたの部下のセラって人に頼まれたんだ」
「そうです。レッサーベヒモスの大群に襲われていると…上空から見ましたが、まさか本当にあれほどの大群が…」
「何体かは倒したが、まるできりがない。しかも明らかに何らかの意思の元に動いているふしがある。おそらくこのままだとゴルドを襲うだろう。なんとしてでもここで止めないと」
「レッサーベヒモスを倒した?しかも何体も?」
ソラノが絶句している。
討伐に一個中隊が必要な魔獣をたった一人で倒す、これがS級魔法戦士の実力なのか。
「話はあとだ。まずは奴らを止めなくては」
アマーリアはそう言って龍牙刀を杖に立ち上がろうとしたが、明らかに膝が震えている。
このまま戦うのは恐らく無理だろう。
「ソラノ、アマーリアを連れてゴルドに戻ってくれ」
「テツヤ!何を言っているんだ?」
アマーリアが驚きの声をあげた。
「いや、ここに来るまでにソラノと話し合ったんだ。この魔獣騒動は陽動の可能性がある」
「なんだって?」
「今頃は王立騎士隊がこいつらを討伐するために城を出ているはずだ。そしてセラの報告を受けて増援も送られるだろう。そうすると城の護りがかなり手薄になるはずだ」
「まさか…」
「ああ、そのまさかの可能性がある。だからソラノとアマーリアには一足先に戻って様子を見てきてほしいんだ。場合によっては王立騎士隊と増援部隊にはすぐに戻ってもらうよう要請も頼みたい」
「し、しかしそれではこの魔獣は…」
「それは俺が何とかする」
「無茶だ!いくらテツヤでもこの数のレッサーベヒモスを相手にできる訳が!」
「アマーリア」
俺はアマーリアの肩を掴み、その眼をまっすぐ見つめた。
「約束する。絶対にこいつらを王都に近づけさせない。だから俺を信じてくれ」
「……わかった。テツヤを信じる」
しばらく経って、軽く息を吐きながらアマーリアが答えた。
「でも一つ約束してくれ。絶対に無事に戻ってくると」
「ああ、それは約束する。キリとも約束したしな」
そう言って俺は笑った。
レッサーベヒモスが危険なことはわかっているが、不思議と恐怖はなかった。
「ソラノ、途中で詳しい事情を説明してやってくれ」
ソラノが頷き、アマーリアに肩を貸した。
「そうだ、その前に」
そう言って俺は手近にあった石を拾い上げた。
石に含まれる金属分と石英から指輪を2個作り上げる。
「これを付けておいてくれ。即席なんで効果は弱いけど二人がどこにいるかおおよそはわかるようになるから」
「これを…?」「私たちに…?」
指輪を見て何故か二人はもじもじしている。
「いいから早くつけてくれ」
俺は半ば強引に二人の薬指に指輪をつけた。
「ついでに二人の剣の硬度も変えておくぞ」
そう言って二人の剣を手にし、高速度工具鋼の硬さに変えておいた。
この世界の剣の硬さはせいぜいいって炭素鋼の硬さ、ブリネル硬さで一五〇程度だけど高速度工具鋼の硬さは七二二ある。ほとんどの武器に負けることはないだろう。
「じゃあ頼んだぞ」
俺の言葉にソラノとアマーリアは宙に舞った。
「テツヤ!この魔獣の背後にはおそらく魔獣使いがいる。そいつを倒せばおそらく進軍は止まるはずだ!」
空からアマーリアが叫んだ。
「わかった!」
「約束だからな!絶対に無事に私の元に戻ってくると!」
「ああ、約束だ!」
「わ、私の所にもだぞ!ちゃんと帰ってくるのだぞ!」
そう言い残し、ソラノとアマーリアは北の空へと飛んでいった。
「さて、ここからが本番だな」
振り返った俺の目の前にはレッサーベヒモスが立ち塞がっていた。
むっとするような獣臭があたりに充満している。
しかも森の奥から更に殺気が集まってこようとしている。
十、いやそれ以上いるだろう。
一国すら滅ぼしかねない数だ。
しかしこいつらを片付ける前にやることがある。
俺のイメージと同時に十メートルほど離れた大木の影に岩のドームが出現し、そこに潜んでいた人影をばっくりと挟み込んだ。
だが、捕らえたと思った瞬間、その岩のドームが崩壊した。
崩れ落ちたドームの中からゆらりと影が動き、染み出るように姿を現した。
フードを被っているので表情はよくわからないけど鷲鼻の痩せた小男だ。
「ヒヒッ私の存在に気付いていたとは、見かけのわりになかなかやるようで」
「お前がいたことはアマーリアだって気付いてた。さっきの様子を見るとお前も土属性みたいだな」
「ヒヒッそういうあなたも土属性のようで。土属性が二人相対するなんて珍しいこともある。ヒヒヒッお名前を聞いてもよろしいですかな?ヒヒッ」
男は言葉の端々で甲高い笑い声を立てた。
「名前を聞くならまず自分が名乗るのが礼儀だろ」
「ヒヒッこれは失礼。私のことは
「俺はテツヤだ。別に覚えなくていいぜ」
「それではテツヤ殿、さっそくで悪いですが、死んでいただきますよ。ヒヒヒッ!」
テイマーの笑い声と共に目の前のレッサーベヒモスが後足で立ち上がった。
まるで目の前に巨大なビルが出現したみたいだ。
巨大な前脚が俺の頭の上に振り下ろされる!
が、その脚が俺に届くことはなかった。
俺が飛ばした巨大な岩石がレッサーベヒモスの側頭部に直撃したからだ。
地響きと共にレッサーベヒモスが倒れた。
その隙を逃さず石つぶてをテイマーに飛ばす。
しかしテイマーはその全てを岩の壁で防いだ。
どうやら土属性としてもかなりの使い手のようだ。
「ヒヒッS級の土属性使いであるこの私を相手にいつまで持ちますかな」
テイマーが甲高く笑った。
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