第32話:陰謀の蠢動
なんとか風呂から上がってくると脱衣所には新しい服が用意してあった。
アマーリアが店員に全員分の服を用意するようにお願いしていたらしい。
地下水路を歩いて汚れていたからこれはありがたい。
時々無茶はするけどこういう部分に気が回るのは流石だ。
風呂から上がるとアマーリアとソラノは報告があるからと王城へ向かい、俺とキリは屋敷へと戻った。
夕食を食べ、ベッドにつく頃には猛烈な眠気が襲ってきた。
今日一日は本当に色んなことがあった。
ゲーレンさんの所で徹夜をしてからこの屋敷に泊まることになり、それから風呂に入って街に出かけ、地下水路で怪しい奴らを捕らえて更に風呂に入り……
そんなことを思い出しながらいつの間にか俺は眠りについていた。
まぶしい朝日にまぶたを刺されて俺は顔をしかめながら寝返りを打った。
柔らかな枕が頭に当たる。
頭の丁度いい位置に枕を引き寄せようとしたけどなかなかこっちへやってこない。
なんでだ?と思いながらうつらうつらと眼を開けると、二つの双丘が飛び込んできた。
一瞬で目が覚めた。
それはアマーリアだった。
しかも何故か全裸だ。
「でえええええっ?」
俺は毛布を抱えてベッドから飛び起きた。
床にはアマーリアのものと思しき服や下着が散乱している。
当のアマーリアはというと完全に熟睡しきって子供のような安らかな顔で寝息を立てている。
な、なんでアマーリアがこの部屋にいるんだ?
なんで裸なんだ?
俺は顔を背けながらアマーリアに毛布を被せて部屋から飛び出した。
そこにフェナクが通りかかった。
「おはようございます、テツヤ様。朝ごはんまでもうしばらくお待ちください」
「ななな、なんでアマーリアが俺の部屋にいるんだ?」
「ああ、この部屋は元々お嬢様の部屋だったのです。昨晩は遅くに帰られたので間違えてしまったのでしょう」
焦る俺になんてことないというようにフェナクが答えた。
「な、なんで裸なんだ!」
「お嬢様は裸族ですので」
そう言うとフェナクは部屋に入っていった。
「お嬢様、ここはテツヤ様の部屋ですよ。まったくこんなに脱ぎ散らかして」
「ふああぁ、あと五分……」
「駄目です。今日から任務があると仰っていたではありませんか。早く起きてください」
「うう……眠い」
ドアが開き、目をこすりながらアマーリアが出てきた。
全裸で肩に毛布を羽織って。
「ああテツヤ、おはやう」
自分が裸であることに気付いているのかいないのか、ぼんやりとあいさつをしながら通り過ぎていく。
「お嬢様、部屋は反対方向です」
アマーリアはフェナクに連れられて再び全裸で目の前を通って去っていった。
俺は廊下に腰を落とした。
なんか朝からどっと疲れたぞ。
◆
「今朝は済まなかったね。うっかり自分の部屋と間違えてしまったよ。はっはっは」
まったく気にしていないという風にアマーリアはバクバクと朝食を食べている。
「あ、ああ……」
俺はというと、今朝の光景をなるべく思い出さないように生返事をするのが精一杯だ。
「そういえば、昨日は何で遅かったんだ?」
俺の言葉にフォークとナイフを持っているアマーリアの手が止まった。
「昨日捕らえた連中なんだがね……釈放されたよ」
「は?なんでだ?」
アマーリアから意外な言葉が返ってきた。
「昨日、王城に戻って取り調べの準備をしていたら文官から連絡があったんだ。彼らは某商会に勤めるただの市民で犯罪性はない、とね」
「はあ?それっておかしいだろ?」
「もちろん抗議したとも。しかし暖簾に腕押しでね。あの武器防具も正当な取引によって手に入れたものだと主張している。あの地下室は倉庫として不正利用していただけだからせいぜい罰金刑が妥当だろうと」
「なんだよそれ……」
ここで俺は気付いた。
アマーリアも頷いた。
「どうやらこれはかなり根が深い問題みたいだ。慎重に事を進める必要があるね」
急に料理の味がなくなった気がした。
どうやらかなり大きな力が働いてるらしい。
うさぎの巣穴に手を突っ込んだらイタチが出てきたような気分だ。
あの男たちは決行の日は近いと言っていた。
嫌な予感しかしないぞ。
「なんとか王に掛け合ってみたのだけど、あれだけでは証拠としてまだ弱いらしい。王城内の警備を今以上に厚くするのが精一杯だった」
「ソラノが黙ってないだろうな…」
正義感溢れるソラノのことだ、釈放ですと言われてすんなり受け入れると思えない。
「おかげで昨日は酷いことになってね。ただでさえ折り合いの悪かった文官連中からの印象は最悪さ。ソラノは今日からしばらく休暇という名の謹慎を言い渡されたよ」
はは……やっぱりね。
「もっと調べたいところなんだが、今日はこれから任務でね。国境沿いの村が魔獣に襲われていると報告があったんだ」
「ああ、任せておいてくれ。こっちの方は出来る限り調べてみるよ」
「そうしてもらえると助かる。特に今回の件は大っぴらに調べる訳にもいかないからね」
そう言ってアマーリアは立ち上がった。
既に軍服に着替えている。
「それでは行ってくる。留守を頼んだよ」
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