第27話:【子猫とクリーム亭】とパフェ
【子猫とクリーム亭】
看板には子猫がボウルに入ったホイップクリームを舐めている絵が描かれている。
なんというか、ずいぶん可愛らしいお店だな。
窓から見える店内も若い女性客でいっぱいだ。
「い、言っておくが、美味しいと評判だから行った事があるだけだからな!」
ソラノが顔を真っ赤にして抗弁している。
俺たちがやってきたのはソラノがアマーリアに勧めたというお菓子屋だった。
中にはイートインスペースもあって、テーブルはほぼ埋まりかけている。
確かにかなりの人気店みたいだ。
「これはこれはソラノ様、いつもご贔屓いただきありがとうございます」
店に入るなり店員がにこやかな顔でソラノを迎えた。
「いつもの奥のお席、空いていますからご案内しますね」
「シ、シー!」
ソラノが慌てているがもはや無駄な努力だ。
アマーリアが生暖かい視線を投げかけている。
「うちは牧場直送のミルクで作ったホイップクリームが人気なんですよ」
店員のお勧めでホットケーキのホイップクリーム添えを頼む事にした。
ソラノはチーズパイのクリーム添え、アマーリアは俺と同じくホットケーキ、キリはプリンのクリーム添えを頼んだ。
確かに美味かった。
濃厚だけどあっさりした甘さのホイップクリームとどっしりしたホットケーキ生地がよく合っている。
日本で食べたホットケーキとは違うけどこれはこれで美味しいな。
「ん~~~~」
至福の表情でソラノが山盛りのクリームを乗せたパイを食べている。
こうして見ると年相応の女の子だ。
「なんだ、人の顔をじろじろ見るな。無礼だろ」
「いや、そうしてると普通に可愛い女の子だなと思って」
「ば、馬鹿か!」
顔を紅くしたソラノが肩をどついてきた。
痛え。
流石に騎士だけあって拳に芯が入ってる。
なんとも凄いギャップだな。
その時、壁にアイスクリームの絵がかかってるのに気付いた。
「このお店はアイスクリームも出してるのかい?」
「ええ、うちのパティシエは凍結のスキルを持っているので夏でもアイスクリームを出せるんですよ」
「じゃあアイスクリームを……いや、ちょっと作ってもらいたいものがあるんだけどいいかな?」
俺はガラスコップを四つ貸してもらい、それを変形させて逆三角形の細長い形状へ変えた。
店員がそれを見てびっくりしている。
コーンフレークが欲しいところだけど流石にそれはないか。
「この容器に押し麦を入れて、その上にアイスクリーム、その上にホイップクリームを乗せて上にフルーツを盛り付けてくれないかな?トッピングはチョコ……はないだろうから蜂蜜かフルーツシロップで」
「か、かしこまりました」
俺の願いに怪訝な顔をして店員が厨房へと引っ込んで行った。
「おぉ……」
出来上がったものを見てソラノが眼を見張った。
縦に細長いガラス容器に盛られたそれは俺が日本で密かに好きだったパフェそのものだった。
スプーンも変形させてパフェを食べやすいようにしておいた。
「これはパフェ、というんだ。さあ食べてみてくれ」
「で、では、遠慮なくいかせてもらうぞ」
ソラノは待ちきれない、というようにスプーンをひったくるとガラス容器の中にスプーンを突っ込んだ。
押し麦とアイスクリーム、ホイップクリームを掬うと口の中へと運ぶ。
「はあぁぁ~~~」
一口食べるなり、うっとりとした顔で天を見上げる。
「な、なんなのだ、これは?アイスの冷たさとクリームの甘さに押し麦の歯ごたえがアクセントになって名状しがたいハーモニーを作り出しているぞ!」
「だからパフェというんだって。俺が転移した日本で人気のスイーツ、菓子だったんだ」
「確かにこれほど美味しい菓子を食べるのは初めてだ。果物の酸味もアクセントになっていて幾らでも食べられそうだな」
「美味しい!」
アマーリアとキリも気に入ったようだ。
そこへ厨房から一人の男がやってきた。
おそらくこの男がパティシエなのだろう。
「あなたがこれを考案したのですか?」
「考案したって訳じゃないけど、まあそういうことになるかな」
「私はこの店でパティシエをしています、コグランと申します。お願いです!私にこの菓子を作る権利をください!」
その男はいきなり俺の手を掴んで懇願してきた。
「こんな画期的な菓子は初めて見ました!全ての素材が完璧な調和を作り上げている!これは菓子の革命です!幾らでもいい!私にこれを作る権利をください!」
「い、いや、権利も何も、好きに作ってくれて構わないよ」
「しかしそれでは私の顔が立ちません!どうか値段を言ってください」
なんかゲーレンさんとのやり取りを思い出すぞ。
この国の人はみんな律儀なのか?
いや、職人としての誇りがそうさせるのだろうか。
俺はちらりとソラノの顔を見た。
「じゃあさ、こういう条件はどうだろう?自由に作っていいけど他の店が作るのも自由にさせること、それからこの四人が来た時は飲み物を無料にしてくれること」
「そ、そんなことでいいのですか?」
「ああ、色んな所で作ってもらってパフェをどんどん進化させていってほしいんだ。それにこのお店にはちょくちょく来たいからちょっと役得も欲しいしね。必要だったらこの容器とスプーンはもっと作っておこうか?」
「ありがとうございます!飲み物と言わず、なんでも注文してください!」
モブランと俺は握手を交わした。
これで契約成立だ。
「ふ、ふん、礼は言わんからな」
ソラノが頬を染めてそっぽを向いた。
「だ、だが、このパフェというのは大したものだ。それは認めよう、うん」
「それは良かった」
そう言って俺もパフェにスプーンを突き立てた。
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