虚弱勇者 〜ラストバトルに僕はいない〜

プロローグ

この世界の半分は魔王に支配されていた。


 魔王城の周辺はひび割れた大地に猛毒の植物、決して晴れることのない雷雲、呼吸すらままならない命削りの濃霧。


 もはや人が住むことの出来ない異界の地になっていた。


 にもかかわらず、支配が半分で済んでいるのは、勇者や冒険者が国や街を守っているからだ。


 魔王に立ち向かうため運命に選ばれた勇者は身体のどこかに紋章を宿し、『聖剣エクスカリバー』を持つ資格が与えられる。


 そして、仲間の冒険者とともに魔王に立ち向かうのだ。




 -10年前-


 静まり返った薄暗い廊下、冷たい空気に不気味な雰囲気。

 何よりも存在感を放つ禍々しく巨大な扉の前に、顔を合わせる三人がいた。


 ここは魔王城最深部、この扉の先に魔王がいるのだ。


「いいか、絶対に魔王を倒して帰るぞ」


 顔に紋章が刻まれた男は言う。

 その手には神々しい剣が握られていた。


「ええ、もちろんよ」


 女の声には、緊張、希望、闘志、さまざまな感情が込められていた。


「くれぐれも油断はしないで下さいね」


 二人に忠告する蒼い髪の少女はこの場には不相応な軽装であった。


「わかってるって」


「うふふ、当たり前じゃない」


 少女の頭をわしゃわしゃと撫でる男と微笑む女。


「ちょっ、やめてください!」


 言葉とは裏腹に嬉しそうな少女。




 そして、扉は開かれたー-







 悲劇とともに。

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