イクス -X-

功奈久遠

第1章:二人の日常

第0話 誓い


 少年は少女を抱きしめていた。

 さらりとした少女の短い髪は、添えられた少年の手により乱されており、身にまとう薄い浅葱色の病衣も同様に、抱き寄せた力でしわくちゃになっていた。

 少年のその様子は、『もう放さない』と、嗚咽の奥で誰にともなく吠え散らしているようだった。

 

 ――震えていた。

 まるで狼に睨まれた子山羊こやぎのようで、とても弱弱しく無力に見えた。


 少年は、一層強く少女を抱きしめる。そして耳元に小さく、それでいて確かに、呟いた。 

「僕が、守るから」

 それは、誓いだった。

「何があっても、絶対に、守るから」

 決して、色褪せることの無い、誓いだった。




「……大丈夫、だよ、にいちゃん」

 少女の口から、消え入りそうな微かな声が、ポツリポツリと零れ落ちた。



「私は、どこにも行かないから」

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