異世界は剣と魔法だけじゃダメ(女の子がめっちゃ必要)
美坂集
第1話 坂田隼斗~サカタハヤトへ
猫に出会った。真っ白な白猫だ。こちらをじっと見つめている。まるでこちらを誘っているようだ。
「どこだここ。」
地元の路地に入っただけだと思っていた。
不味いと思ったのは眼球が潰れるくらい眩しい光に包まれた時だった。
「どこだここ!?」
そこは、まるで西洋の国に来たような場所だった。しかし、確実に自分は海外旅行に来ているワケではないとすぐ気付いた。
その理由は一瞬で確定した。
「ト、トカゲでけー。」
自分よりはるかに大きいトカゲを見つけてしまった。
大きなトカゲが馬車のように二台を付けて走っていた。
「スゲー。つーかマジここどこ?」
周りを見ても自分が出てきたと思しき路地はもう無くなっていた。
「もしかして僕、帰れなくなった?」
隼斗は帰れなくなっていた。
「これってもしや迷子ってやつー!冗談じゃないぞ、生まれてこの方16年一度も迷子なんかになったことなかったたのに、まさか初体験が16歳って、恥ずかしいのレベルじゃないぞ。」
しかし、自分が迷子より不味いことになっているのに気づく時間は、そうかからなかった。
「てゆーか、これ異世界召喚ってやつじゃないか?明らかにここの風景、現実離れし過ぎだろ!いやーでもなー、いきなり異世界召喚とかいったって自分でも納得いかねーしなー。」
「どうかしたの?」
「ん?」
急に女の子が話しかけてきた。真っ白なワンピースを着た女の子が立っていた。
年は隼斗とかわらないか、年下くらいの見た目だ。
(あー僕、異世界召喚されたわ、こんな可愛い子現実におらんわ。)
「で?君はこんなとこで何やってるのさ。困っているならボクは今、時間空いてるし手助けしてあげても良いよ。」
(しかも、ボクっ娘来たー。)
「あっ自己紹介がまだだったね。ボクはアベル、上の名はメイ。メイ・アベルがフルネーム、アベルって呼んでくれると嬉しいな。」
「分かったよ、アベル。僕はサカタ・ハヤト。僕もハヤトでいいよ。」
するとアベルの白い髪が驚いたのかぴょこんと揺れた。
「ボクの名前を聞いても驚かなかったからもしやとは思ったけど、君も上の名持ちだったの?」
「上の名?」
「下の名と上の名があって、下の名は皆んな持ってるけど上の名は貴族かそれに近い位の人、または王族しか持ってないんだよ。知らないの?」
(まじかーそんなルールがあったのかとにかく、いい言い訳を探さねば。)
「あーいや、僕は田舎の小さな貴族の三男だから世間知らずなんだ。今年16になって街に出ようと思って。へ、へーそんなルールがあったのか。」
「はははっ、もしかして箱入り息子だったのかな。」
「そ、それで相談なんだがこの辺に働くのに丁度いい所とかないの?」
「んー、貴族の三男が働く場所か。」
二人でふらふらと歩道らしき道を歩いていた。
これ以上この娘に迷惑をかけまいと隼斗が礼を言おうとした時、
「そうだ、ボクのお家で雇われてみない?」
「お家?」
突然に突然過ぎて声が裏がえってしまった。
「うん、ボクのお家。雇うと言ってもメイドや執事が沢山いるわけじゃないんだ。それにそんな大きな屋敷じゃないしね。」
隼斗にとって喉から手が出るほど嬉しいお誘いだが、これ以上アベルに迷惑をかける訳にはいかず、
「気持ちはとても嬉しいけどそれは遠慮しておくよ。これ以上アベルに迷惑をかける訳にはいかないしな。」
「えー遠慮なんてしなくても良いのに。」
「じゃ僕はこれで、じゃあね。」
「またどこかで、…それとボクは男の子だよ。」
「えーーーーーーーーーーーーー!?」
5時間後、
隼斗はショックで動けなかった。5時間も。
「はーというか、このままじゃ孤独死するな。とりあえず見て回るか。」
それから数分間歩き回ってみると、
「改めて見るといろんな種族がいるな。もしかしてここは王都なのかもな。」
ふと前を見てみるとよろよろと歩く女の子が目に入った。手にはリンゴっぽい果物らしき物が入った紙袋を持っていた。
(顔が赤いな。熱でもあるのか?)
少女がよろめいた拍子にリンゴらしき果物が一つ落ちた。隼斗はそれを拾うことにした。
「はい。落としたよ。」
「ありがとうございます。」
見た目はとても病弱そうで年は隼斗と同じか年下くらいに見える。
(このまま放っておくのは不味いな。)
隼斗は話しかけることにした。
「ねぇ、ふらふらしてるけど大丈夫?」
「いえ、すこしクラクラするだけです。」
「ホントに大丈夫なの?顔が赤いよ。家近いなら送ろうか。」
少女の目が少し鋭くなった。
「何が目的ですか。」
(さすがにこんなので恩をつくるのは無理か。)
正直に話そうとした瞬間、
「おいっ!」
バタッ
少女が倒れた。
「一旦連れてくか。よいしょって、かる。」
あまり人目につくといけないと思い、なるべく人の少ないところへ運ぶことにした。
運んでいる途中、少女の顔が熱とは別の意味で赤くなっているのに隼斗は気づかなかった。
(今更だけど僕ろくな物持ってなかったな。)
持ち物、スマホ一台、ポテトチップス一袋、のみ。
(使えねー。スマホはもちろん圏外だしポテトチップスじゃ何も出来ないしな。)
小さな路地に入り少女を横にした。
(それにしてもなんでゴスロリなんだ?)
「ん」
「ああ、起きたか。悪いな今ろくな物持ってなくて、こんなんで良ければ食べる?」
隼斗はポテチの袋を差し出した。
「なんですかこれ。」
「これは僕の故郷で食べられているポテトチップスっていう食べ物なんだ。ああ、怪しいもんじゃないぞ。」
ポテチの袋を開けた。
少女はポテチを一枚口に頬張った。
「おいしい。」
「そうか、それは良かった。」
「助けてくれてありがとうございます。」
さすがにこんなことを恩にしては少女が可哀想だと思い、正直に話すことにした。
「いや、実は少し困っていたんだが、君を助けて恩を返して貰おうと思ってたんだ。酷いまねをして、悪かった。」
「いえ、ほんとうにありがとうございました。困っているなら力になりましょうか。」
「あーじゃあここがどこでどういう街なのか。それと僕は田舎の小さな貴族の三男なんだけど、働くのにいいとこないか教えてくれないか?」
「そんなことでいいのなら喜んで。そ、その前に自己紹介しませんか。私はカイン、上の名はメイ。メイ・カイン。どうぞカインと呼んでください。」
その名を聞いて違和感を覚えたがすぐに忘れた。
「何となく分かってたけどカインも貴族なのね。僕はハヤト、上の名はサカタ。僕もハヤトでいいよ。」
「は、ハヤトさんですね。あっ話の続きでしたね。先ずここはアルカディア大陸の王都メルー。あまり詳しくは知らないですけど、メルーは昔いた大魔導師の名前らしいです。」
(ふーん、やはりここは王都か。)
「働く場所ですか。失礼ですが剣や魔法の経験はありますか?剣が使えるなら騎士に、魔法が使えるなら魔導師になるという手もありますよ。」
「いやどちらもないな。でも騎士か、それもありだな。この辺に騎士の学校とかないの?」
「ありますが結構あれがかかるんですよ。」
「うっ、そうかあれがかかるのは困るな。」
するとカインは急に笑顔になり、
「なら提案なんですが私のお屋敷で雇われてみてはいかがでしょうか。それであれが貯まってから騎士学校に入ればいいじゃないですがか。それに元々騎士学校はだいたい20歳位から入る人が多いんです今から入らなくてもまだまだ間に合いますよ。」
「うーんでもカインに悪いしな。」
「何言ってるんですか。ハヤトさんは命の恩人なんですそれくらいして当然です。」
「そう?じゃあお言葉に甘えようかな。」
隼斗はカインのお屋敷でお世話になることになった。
「やった。」
「ん?なんか言った?」
「なんでもありませんよ。」
隼斗は自分が思っている以上に歓迎されている事に気づいていなかった。
こうして坂田隼斗はサカタハヤトとしての人生を歩もうとしていた。
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