ベタなRPGの勇者になった件について

幸野曇

始まりの村・スタートビレッジ

城下町

episode1 逆サクラレビュー書いたら転移した

 7月の深夜2時。外は雨が降っており、ガラスとカーテン越しに小さな雨音が聞こえる。

 夏休み中の大学生の俺・大野晴則おおのはるのりは、進学時から住み始めた部屋のパソコンでGame postにアクセスした。

 ほぼ毎日見ているこのサイトは、素人が自分で作ったフリーゲームを投稿し、遊んでもらうという場だ。俺はいつも、ベタ過ぎるゲームに逆サクラレビューを書いたり、興味を持ったゲームをプレイしてみたりしている。


 お気に入りからサイトに飛び、新着ゲームの文字をクリック。体に染み込んだその動作をやったのち、昨日は無かったタイトルを眺め始める。

 数秒後、とあるゲームが目についた。

 タイトルは……典型的なRPG? 作成者名はゲーマーオタム。

 はは、馬鹿丸出しじゃねぇか。サムネからもベタさが伝わってくる。


 これはレビュワー春の出番だな。


 ゲームのトップに飛び『レビューを書く』をクリック、星1つに設定する。両手をキーボード上に移動させ、叩き始めた。

 星なんて1つも付けたくないですが、1つは付けないと投稿できないので仕方なく付けます。このゲームは面白みも何もない、ただただなんとなく流行に乗っただけのベタ過ぎるRPGです。こんなものをプレイしようと思ったそこの貴方、ブラウザバックしてもっと良いゲームを見つけてください。

 エンター、投稿された。


 なんか画面が眩しいな、ネットサーフィンの弊害かな……な、なんだこの光は!?

 そう思ったのも束の間、俺の部屋は白い光に包まれた。


「大野晴則よ」


 ……誰が喋ってんだ? 視界はまだ真っ白なままだ。


「君の脳に直接語りかけているんだ。ワシはこの世界の神だ」


 脳に直接って、二次元じゃないんだから……あと、神ってなんだよ。


「いいから聞け。君はこれから異世界転移をし、RPGをクリアしてもらう。ちなみに展開諸々はベタの極みだから心配はするな」


 いきなり言われても。しかもベタの極みって、まるでさっき俺が逆サクラレビュー書いたゲームじゃねぇか。ベタはやりたくないんですけど。


「拒否権はない。いや、ありはするか。だが、転移、冒険、コンテニューを拒否すれば君は現実世界で死ぬ」


 は、クリアしないと死ぬ!? いやいや、死ぬのは嫌だぜ。やるしかないのか……。


「ちなみに、右手を振れば色々なコマンドが出てくるからな。それじゃあ転移させるぞ。そーれっ!!」


 いや、待て待てちょっと待てー!!



 ……あれ、此処どこ。地面は小石なども混ざっている土で、倒れていてあまり心地は良くない。そういえば、RPGの村の道ってこんな感じだったような。

 ま、まさかあの自称神、本気で転移させたっていうのか。


 起き上がろうとすると、足音がこちらに近づいてきた。


「君、大丈夫? ……あ、もしかして。予言書に書いてあった勇者?」


 声をかけられた弾みで立ち上がった。道沿いには、三次元の物とは思えない住宅や施設が立ち並んでいる。

 そして、さっきの声の主は……



 二次元でよくある男の顔をしていた。



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