第38話 2030年11月某日(龍神池3)

「ここは…どこなんだろう?」

 少年は、ぼんやりと夜空を眺めて呟いた。

(空に星が見える…そんなとこがあるんだな…)

 初めて見る風景に戸惑うわけでもなく、少年は暗がりの通路を歩き出す。

 人気のない方へ…ない方へ…人目に付くことを本能的に避ける野良犬のように。

 河原へ出ると砂利の音を愉しむように歩き出した。

 一度…戻ろうか…還れるかもしれない。

 少年は来た道を引き返した。


 古い橋の前で立ち尽くす少年をライトが照らした。

 話しかけてきた老人に、思わず少年は助けを求めるように答えてしまった。

「迷った…間違えたのかもしれない…」

 暖かい部屋に通され、それに逆らわなかったのは自分でも不思議だった。

 逃げようと思えば逃げれたのに…一緒にいれば、この人にも迷惑をかけるかもしれないのに。

 差し出された手を取ったのはなぜだろう?

 この熱い飲み物には悪意を感じない。

(逃げて…)

 言いかけて、その言葉を飲み込んだ。

 ココから去るべきなのは自分の方だから。

 自分一人でも、この程度の人数ならば何とか逃げることくらいはできるかもしれない。

(だけど…逃げて何処へ行く?)

 逃げ続けて、この星に辿り着いた。

 出来損ないの、この星に…。

 だけど…出来損ないだから、この空には星が輝く。

 コピーは劣化だと鏡を渡り続けて理解できた。

 オリジナルには及ばないボヤけた世界。

(きっとココが袋小路なんだろう)


 程なくして迎えが来た。

 この星の軍隊…大した装備はない。

 大人しく従ったのは、逃げる場所がないからだ。


 ………

「ユキ…どうするんだ?」

「あぁ…今は手出しできないさカイト」

「まごまごしてるからでしょ、とっととさらえば良かったのよ」

「キリコ、そうもいかないさ…NOAと、今ぶつかるわけにもいかない」

「そういうことだ、アチラさんも歯ぎしりしているだろうさ」

「今回は出遅れた…ということは、政府にも魔境を感知する技術があるってことだ」

 ユキが苦虫を噛みつぶしたような顔で爪を噛んだ。

「行こう…今回は出番は無しだ夜叉丸」

 白い巨大な霊獣がユキにすり寄る。

「聞こえるか? ビクニ…今回は諦める」

「そう…構わないわ、魔境が現れたと思ったら…子供とはね…どういうことかしら?」

「あの子供が身に着けているのかもしれない」

「魔境を?」

「…それに相当するナニカをだ」

「いいわ…今回は戻りなさいユキ…迎えを送るわ」

「カイト、キリコ戻ろう、まだ機会はある」

 3人はスマホに記された合流地点へ向かった。


(どうせ、持て余す…そのときはNOAと、ぶつかるだろうな…)

 ユキが不安そうな目で自らが使役する霊獣を見つめていた。

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