第20話 2050年8月某日

「いよいよ解剖か…」

「憂鬱だよな…餓鬼の解剖なんて」

「固着剤を剥がすのに3週間かかったんだってよ」


 解剖台に横たわる頭部のない餓鬼。


「メスだってな?」

「あぁ…まぁ繁殖するわけじゃないからなメスってのも…どうだろう」

「元ってことさ」

「しかし、SMPって短時間で、こんな変異しちまうのか…恐ろしいな」

「痛そうだよな」

「いや…エンドルフィンがとんでもない量、分泌されるらしい」

「脳内麻薬ってやつか、ドーパミンとか?」

「死ぬ直前は気持ちいいとか言うよな」

「SMPは快感だってのか?」

「さぁな、しかし…コレ胸だろ、こんな位置についてやがる」

「女も男も関係なくなるんだからな」

「それで何になるんだろうな?」

「えっ?」

「いや…男でも女でもないのなら…コレは何なんだろうってことさ」

「……餓鬼…」

「うん…人の先は…餓鬼なのかな?」

「嫌な事言うなよ」

「何で人を食うんだろう?」


 パタンッ…

 後ろでドアが開いて初老の男が入って来た。

「ご苦労さん…キミたち研修生だな何回目だ?」

「あっ…ご苦労様です先生」

「俺は…いや私は3体目です」

「私は2体目です」

「そうか…じゃあ解っているだろうが、厚生労働省SMP研究室…ココでは大学で習った解剖学など役に立たない…SMPは個体差が激しい、共通項の方が少ないと言ってもいい、何体のSMPと向き合おうとも、常に1体目なんだよ」

「はい…」

「そして…このS研に回されたということは…もう、世間とは別の世界へ入ったということだ、特に解剖医になるということは、それまでの研究、解析とは別格なのだよ」

「別格ですか?」

「良くも悪くもな…こんな得体のしれない化け物を相手にするんだ…生きているコイツ達を相手にするほうが、まだマシかもしれないと思うようになる」

 研修生がチラッと餓鬼を見る。

「始めようか…」

 初老の男が餓鬼の皮膚を軽く金属のハンマーでコンコンと叩く。

「柔らかいほうだな…電ノコで開くか」

 ギュイィィイィン…

 電動ノコギリで餓鬼の皮膚を薄く…薄く…少しづつ削る様にノコを動かす。

 休み休み…80分ほどかけて、胴体を開いた。

「ふぅ…これだけで疲れる…まったく内蔵など機能しているのか?」

 ぼやく様にブツブツと独り言を呟く初老の解剖医。


「胃だけは…肥大化というのか…巨大化というべきか、異様に大きい…これだけはSMPの特徴だな…餓鬼とはよく言ったものだ…」

 取り出された餓鬼の胃を研修生が別の台へ運ぶ。

「キミたちは、その胃を裂いてみたまえ…道具は何を使っても構わん」

 研修生がメスを握った。

「ハハハ…キミはまだまだ経験不足だな、言っただろ解剖学など約に立たないと、SMPの解剖は解体なんだよ、実は大工の方が上手に熟すかもしれんよ」


 解剖医が苦笑した。

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