第18話 2019年1月某日
「コレは…悪魔の…いえ悪魔そのものだわ」
研究室で女性が深いため息を吐いた。
DNAと違いRNAは変異しやすい、コピーミスを誘発すれば、簡単に変異種が作れる。
ウィルスは生物ではない…ヒトの定義では。
確かに生きているとは言えないのだろう、しかしウィルスは細胞に取り付くことで増殖していく、ヒトもその恩恵を受け進化してきたのだ。
つまり…生物を変異させる要素なのだ。
事実…COVID-19の真の目的は強制的な変異を促すことなのだ。
ただ相性というものがある。
疾患、先天性の障害、つまりDNAに最初から欠損がある場合は変異し難い。
それが進化に対応できない個体を間引くという結果になるのだが、それは、おまけ程度の効果でしかないのだ。
ただ、多くの先進国が抱えている高齢化、障害手当の増加、年金、予算の圧迫を効率的に解決してくれるはずだ。
つまり、彼らは、おまけこそ重要な要素と捉えるだろう。
人は人権で首を絞めていると言っても過言ではないだろう、受刑者の刑期にまで税金が充てられている…刑務所まで老人で溢れている先進国、それを少子化社会で支えていかなければならない。
誰が見ても近い将来、国家破綻することは目に見えている。
乱暴な二極論で語れば、不要な者を生かすために必要な者を殺さなければならない…いや現実はすでに、そういう構図になっているのだ。
「だからといって…許されるの?」
人道的な行動など経済的に余裕があってこそ行える行動なのかもしれない。
緊急避難において自身の生命を守るために他人を犠牲にしても罪ではない。
そう…世界は非常事態に直面している。
犠牲にする数が桁違いに膨れ上がってしまっただけ…
そう言い聞かせて研究を続けてきた。
だが…実際に望む変異を目の当たりにして、私のヒトとしてのナニカが揺らいできている。
このウィルスは効率よくヒトを間引いていくだろう、何の躊躇いもなく。
だから…ひとつだけ…私の贖罪を残そう。
可能性を残そう。
さらなる変異を…ヒトを無慈悲に間引く悪魔に、私の慈悲を残そう…。
COVID-19のワクチンで未来を約束された特権階級に牙を突き立てる悪魔の卵を残そう。
私の子宮で産まれる『悪魔の卵』…絶望を糧に育ち、全てを食らう悪魔。
私は…この世界の『リリス』
全ての『悪魔』の母となりて…人に仇名す女神。
女医は自らの腕に注射を打って、研究室を後にした。
「願わくば…この世界の浄化を…」
願いを叶えるために捧げられる命の数は?
神は供物で人に手を差し伸べる…悪魔と神の差なんて在りはしない。
双方に人に対する慈悲など持たないのだから…。
女医は夜の街を彷徨う…
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