第17話 2022年7月某日
「アッチぃ…」
マスクをずらして、空気を吸い込むがアスファルトに熱された空気は不快感を煽るだけだった。
「北海道は涼しいなんて嘘じゃねぇか…」
タクシーを降りた相良が悪態を吐きながら、コンクリートに囲われた敷地の周りをダラダラと歩き回る。
「中は見えない…元、刑務所…今は…『国営ファーム』…」
(なんだかな~)
閉鎖されて1か月足らずで…埋め立ててバイオ農業試験場…まぁ受刑者の強制労働施設だって話だが…
(どこからの情報なんだか…国営だろ? 曲がりなりにも…)
近代的な農業施設、バイオファーム…試験管でトマトを栽培ってか…美味いのかね~?
「手際のいいことだ…ったく…」
マスク2枚配るのに、あんなに手間取った日本政府がね…特別給付金より自動車税の振込用紙が先に届いたって批判されてたのも2年前か…。
「…出来レースって言われてもね、仕方ないだろうけどな」
流れる額の汗を手の甲で払って、タバコに火を点けた。
「入ってみるかな~」
小声で呟いて、胸ポケットの警察手帳を指で突いた。
……
「警察?の方ですか…」
受付で警察手帳を差し出そうかと思ったのだが、相良は見学ツアーのガイドに手帳を見せていた。
「まぁ…そういうわけで協力いただけませんか…列に混ざるだけですから」
「はい…わかりました…けど問題にはならないんですか?」
「なりませんよ、なんなら、この場でアナタの会社に電話しても構わないんですけど…あっアナタが警視庁に電話しても構いませんよ」
「いえ…別に…そこまでわ」
……
一般客に紛れて相良は試験場の中を見学していた。
(これだけの施設を…短期間でね~)
ツツーッとバイオプラントの設備を指でなぞって人差し指でピンッと軽く弾いた。
設備メーカーのロゴ『ARK』
「政府に食い込んでるね…偶然じゃあ済まされないほどに…」
気持ちの悪いもんだな…ガラスの容器でレタスが育つ様なんて…
汚れのひとつもない野菜か…
細菌も付着しない、オゾン水で洗浄された野菜で作られたオシャレなサラダを前に相良はフォークでレタスの葉を突いていた。
「なんでかな~食欲湧かないんだよな~」
相良の目には色鮮やかな野菜が不気味に映っていた。
食品サンプルのように映ってしまうのだ。
(蝋細工みてぇだな)
シャクッと口に運べば雑味の無い美味しい野菜ではあるのだが、どうにも好きになれないナニカがある。
……
「いや…協力に感謝しますよ」
試験場を出た相良は、古びた定食屋に向かった。
ヒマそうな店、店主がカウンターで新聞を広げている。
「天丼ひとつ」
「あいよ…」
愛想のない店主がトンッと机に丼を運んでくる。
「人が人を嫌っちゃあ…おしまいだと思うんだけどな~」
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