第13話 2050年7月某日 その1
「餓鬼…」
『SMP』は国ごとに通称が異なる。
『SMP』とは変異現象そのものを指し、同時に変異個体を同時に差している。
なんとなく語呂が悪いのか、日本では『餓鬼』と呼ばれるようになった。
悪食とその毛の抜け落ち赤黒い皮膚、その外見の特徴が、そう呼ばせたのだろう。
報道番組などでは『SMP』と表記されるが、『餓鬼』のほうが浸透しているというわけだ。
統合幕僚監部特別防衛班『特防』の『SHIRLD`s』
『盾』と蔑まれる使い捨ての防護班、その役目は餓鬼の行動を抑制しつつ、民間人の現場隔離である。
「肉の壁…」
ボソリと呟いて強化プラスチックのシールドを持って列に並ぶ。
「山岸‼ 列が乱れているぞ‼」
(死にに行くのに整列しなけりゃならんのかよ…クソが‼)
無言で半歩、右へズレる。
「よし、目標はすでに外へ出ている…周囲200mを円形に包囲した後、輪を狭めて追い込んでいくぞ‼ 5人編成で8部隊、時計合わせ‼」
30分ほどトラックの荷台で揺られて現場で2分ほど待機した。
PiPiPi…
「時間だ、追い込むぞ」
俺は盾を構えて歩き出した。
どこから餓鬼が飛び出してくるか解らない。
(肉の壁…死の行進…)
幸いにして餓鬼と出くわさないまま、左右から他の部隊が合流した。
餓鬼は、ほとんど移動しなかったようだ。
最初の目撃地点から、そう離れてない住宅地を等間隔で包囲して20分、いまだ餓鬼の姿を確認できずにいた。
(情報が間違ってたんじゃ…)
頭に疑念が過った時だった。
ヌッ…と民家の壁から餓鬼が姿を現した。
ギクッ…
身体に緊張が走る…と同時に悪寒が背筋を駆け抜ける。
赤黒い肌、抜け落ちた頭髪、体毛は、ほとんど無い。
巨大化した歯はガタガタで醜悪、黒目だけの飛び出したカニのような目玉、手足が細く、左右に大きくズレた乳房がある。
(女か…)
コチラの事など気にも留めずにペタペタと歩いてコッチへ歩いてくる。
左手には幼い子供の死体、手を繋ぐように握って引きずっている。
頭部と、腹を食いちぎられている。
「ク…カッカカ…」
餓鬼は喉から奇妙な声を発し、いきなり飛び上がった。
「逃がすな‼」
集まってきた『SHIRLD`s』が盾を構える。
(逃げたんじゃねぇ‼)
空中で餓鬼の目は後方の野次馬を捉えていた。
落下の勢いそのまま、一人の男の頭部を餓鬼の手が掴んだ、地面に後頭部を打ち付けられ、男の身体がビクンッと波打ち仰向けに倒れた。
割れた頭部から脳みそを右手で、すくい取る様に掴んで、掴んでいた子供の死体の顔に塗った。
「抑えこめ‼」
数十人の『SHIRLD`s』が、餓鬼を取り囲む。
餓鬼は少し興奮したように身体を揺らし威嚇するように手を広げた。
まるで、野生の動物が子供を守るように…。
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