第10話 2018年1月某日 (竜神池3)

「それが…このウィルスか?」

 2050年、世界人口は97億を超える、そんな試算が先進国を悩ませていた。

 医療の発達により、人は病気を克服してきた、そして平均寿命は伸び続けている。

 医学の進歩が種の存続を危うくしているのだ。

「現在の先進国、共通の問題は老人ですよ…税金で老人を食わせていけない国が多い、結局、そのツケは納税世代の自殺率を高めている」

「皮肉なものだ…」

「悪循環です、老人は死ぬことすら忘れていくのですから…」

「アルツハイマーかね?」

「正常でも…老人は若者より生きるということに執着していますよ」

「まさに老害…か」

「老人が自殺する国に未来はない、そんな格言がありましたが…間違いです、老人を産みだす社会に未来はない…私なら、そう言うでしょうな」

「つまり…このウィルスで、ソレが食い止められるということかね?」

「まさか…そんな手間を掛けなくても、世界中で、姥捨てを義務化すれば問題は解決します」

「姥捨て…日本の風習だったな」

「日本人は、世界で一番…命を軽く見ている国です」

「おいおい…彼らは死に美徳を感じる稀有な国民だぞ」

「そう…昔の日本なら、老人大国にはならなかったでしょうね…米国に毒された島国は、もはや醜悪ですらある、彼らは誇りと文化を捨てたのですから」

「隣国を悪く言うことはできんよ…ククク」

 そういう割に楽しそうに笑う中国人。

 その身なりから、かなりの高官であることが伺える。

「そこで…このウィルスを上手に使ってみてはいかがでしょう」

「ふん…」

「コイツは、まだ完成してはいません」

「未完成品などいらん」

「あ~言葉が悪かったですな、コイツは雛形なんです…如何様にも変異する可能性を秘めています、現段階では、ある程度弱体化した臓器に食い込み死へ誘うだけの優しい死神に過ぎない…」

「死神に慈悲などあるのかね?」

「私の考えでは死神は優しいと思えるのですがね」

 中国の高官が椅子に座ったまま、来客用のソファに腰掛ける背の高い男を指さして

「ヴァリニャーノ君…キミは、いや『NOA』は我々に何をさせようとしているのかね?」

「さぁ? 私は交渉人に過ぎません、上の意図までは…」

「上…『NOA』のTOPとは誰なんだね?」

「ハハハ、いや、ソレなんですがね、末端の私などでは、とても見れないようで…」

「遺跡荒らしの『NOA』…怖い企業だよ…我々にとってはな」

「我々は良い関係を築ける国を探していたんですよ」

 ヴァリニャーノはソファから立ち上がってジェラルミンケースを長い脚で高官に向かって蹴り飛ばした。

「共産国ってのは便利でね…あなた方は我々に従えばいい…報酬は、そうだな世界をくれてやる」


 ギリッと歯ぎしりの音…

(若造が…)

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