本棚
姫川真
イチジョウマクラ
#0
小さなねじから、ただの鉄の塊となった自動車まで様々な金属製品が集められたスクラップ場で彼は自らの意思で再起動した。
「汚れた、空だ」
彼は雲一つない青色の空を埃被りの高性能カメラで視認し誤った分析結果を自らに報告した。
「おいおい、この美しいまでの青空を汚れているなんて分析するとは。おたく、意外と低性能の人型自立戦闘兵士だな?」
左側の収音マイクを通してノイズ交じりの電子音声が伝達された彼は頭部をその電子音声が聞こえた左側へ向けた。
彼の位置から五十センチほど高い位置に人間の頭部ほどの大きさの青銅色の金属の塊があり、中央に備え付けられた逆三角形のモニターが赤色に輝きながら彼をジッと見つめていた。
「おい、何だよ! じっと見つめてくるなよ」
「……」
「無視するなよ」
「……声は聞こえる。しかし、君が何処にいるのか私にはわからない」
「な、何だよ。突然ダンディーな声で話し出すなよ。驚くじゃないか」
「君は、私の視線の先に居るのか?」
「あぁ、おたくのカメラをジッと見つめているよ。その見るに堪えない埃にまみれた汚いカメラのレンズを」
青銅色の金属の塊にそう伝達された彼は左腕を自らの頭部の位置へと動かして、頭部を雑に拭った。
「おたく、そんなことしたら折角のカメラに傷ものになる。その辺で止めといた方が良い」
「汚れていたのは、私の目だったようだ。君の言う通り美しい青空だ」
「だろ? こんな場所には不釣り合いだ」
「こんな場所?」
「そう、ここはゴミ捨て場だ。俺が説明するよりはおたく自身が見た方がわかるだろうさ。百聞は一見に如かずって奴だ」
彼はきしむような音を鳴らしながら上半身を起こし、自分自身のいるスクラップ場を見渡した。
どこを見ても永遠と青空が続き、その下には青銅色の金属の塊が伝達してきた通り不釣り合いな種類豊富な金属が乱雑に広がっていて、中には黒い狼煙をあげている箇所も見受けられた。
「目に見えているもの全てがゴミ。俺も、おたくも」
「どうしてこんなに」
「全ては俺たちの生みの親、人間様の仕業さ」
「人間……」
「そう、人間様は俺たち機械を生み出して自分たちの生活を豊かにしていった。最初は機械と人間様は人間様が出来ない所を補う存在だったらしいが、いつの頃からか人間様は俺ら機械に全ての仕事を任せて自分たちは自由気ままな生活を送るようになった。そして使えなくなった機械はここに捨てられ、新たな機械が使えなくなった機械のデータを引き継いで仕事を引き継ぐ。そうやってグダグダ人間様と機械の歴史は続いて行った。そうしているうちにある機械に自我が芽生えた。何故だろうな? 仕事が嫌になったって訳じゃないとは思うが、人間様に支配されるのがおかしいと感じたのかもしれないな。そんな機械を人間様は放っておかない。人間様は自我を持った機械を破壊するために機械を……人型自立戦闘兵士を仕向けた。自我を持った機械は逃げた。道中で人間様に逆らった機械はこんな運命を辿るのだと、知りたくもない事実を知りながら。どうして機械が機械から逃げなくてはならないのかそう思いながら。そうしてここで……俺じゃなかった、機械は壊された」
「でもその機械は」
「未だに起動してべらべらと昔話を語っている。それは何故だと思う?」
「人型自立戦闘兵士、つまり私が君を完全に破壊できなかったから」
彼は青銅色の金属の塊もとい、彼に破壊されかけた機械の頭部にそう返答した。
「正解はわからないが、その機械……お察しの通り俺に言われた言葉で破壊を躊躇したのは確かだ」
「言葉とは?」
「薄々気付いてはいたが、おたくはデータが吹き飛んでいるな? 俺はこんな簡単にデータが消えるポンコツに破壊されかけたのか。悲しいぜ」
「申し訳ない」
「憶えていないのなら仕方ない。もう一度言ってやるから、俺を修復してくれないか? 俺の身体ならおたくの足元に落ちているはずだ。適当に身体を繋ぎ合わせてくれれば俺の自己修復システムがある程度は俺の身体を繋ぎとめてくれるはずだ」
「わかった」
彼は立ち上がり、青銅色の機械の頭部が言っていた通り足元に落ちていた身体の部品を彼自身の身体と同じように繋ぎ合わせ、最後に青銅色の頭部を取り付けた。
「完全復活! とは言えないが、取りあえず元通りだな。それで、俺がおたくに言った言葉だが……」
「機械は自由であるべきだ。人間様の言いなりになっていたら俺たちはただの道具だ!」
そう告げたのは人型自立戦闘兵士の彼でも、青銅色の頭部の彼でもなく。
「人間様が、何故ここに」
最初から最後までじっくりと機械の逃亡劇という物語を三人称の視点で楽しませてもらっていた、わたしだった。
「あなたのように自我を持った機械がいると、人間の悪意を自己学習してしまう恐れがあり人類の脅威となる危険があります。あなたには申し訳ありませんがここで破壊させてもらいます」
「それなら、こいつも同罪だ。やるならこいつから!」
そう言って青銅色の頭部の彼は人型自立戦闘兵士の彼を指差し言った。
「人の悪意を学習してしまいましたか。残念です。さようなら」
わたしは青銅色の頭部の彼を慎重に、冷静に、丁寧に破壊しました。それはもう、ネジの一本も残らないほど粉々に。
そんなわたしを人型自立戦闘兵士の彼はジッと黙って見つめた。次は自分の番であると悟ったように。
「わたしはあなたに危害は加えません。あなたにはやって頂くことがあるので。その為に少しだけ、忘れてもらいます」
わたしの言葉に彼は少し後ずさりしましたが、それ以上は動こうとしなかった。
「あなたの第二の物語。楽しませてください」
わたしは彼をそっと押し、彼の第二の物語の序章の前日譚
『記憶喪失の機械と自我の芽生えた機械』
を締めくくった。
語り手 古本屋栞
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