6. レイジ・アゲンスト・スピードデーモン
横転した煽情的トレーラーはもくもくと白煙を噴き出して今にも危険な状態だ。 かろうじて開いた後部扉がらサクラバが息も絶え絶えになりながらはい出てきた。護送車チームはいったん外に出てれ救助をすることになり、囚人監視官はアルテミス・ハイウェイパトロールにハイウェイ備え付けの携帯端末でスクランブルコールをかける。
「大丈夫か!? 一体何が起こったんだキミ!?」
「……ファントム・キャリッジにやられた……僕たちは見落としていたんだ……ハイウェイに気を取られ過ぎたんだ」
「ファントム・キャリッジだと!? 一体何を言っているんだ!?」
「フヒヒ……お前たちはファントム・キャリッジという凶事に気を取られてすぎて本質に気づかず痛い目にあったというわけか……」
「ファントム・キャリッジ……奴は本物の悪魔だ……それも電脳仕掛けのスピードデーモンだ……グフッ」
サクラバはそう告げると意識を失った。ウィルバーは一層青ざめた顔でデビルレイを見た。デビルレイの眼はウィルバーの心を見透かしたような色だった。
「……どうする運転手さん?……オレの言うことを聞くか……それともアルテミス・エンタープライズ社に連れていくか……答えは一つだ……」
究極の選択を突き付けられたウィルバーは考えをめぐらし、仕事とスピードデーモンを天秤にかけ、一つの結論に至った。
「なぁ、あんたの言うことを聞くとこの凶事を収束させることができるようになるのか?」
その瞬間、デビルレイはニタニタ笑った。ウィルバーは戦慄した。なぜならデビルレイの表情が自分が救世主になれると確信しているかのようだったからだ!
「フヒヒ……どうやら運転手さんはオレが見込んだ通りの人間だったようだ……約束しようオレにすべてを任せれば解決できるだろう……」
「じゃあまず俺は何をすればいいんだ?」
「……運転手らしくオレを指定の場所まで運んでくれたらいい……まぁそんなことより……まずはアルテミス・エンタープライズとの交渉だな」
「え?」
デビルレイはそういうとハイウェイ備え付けの携帯端末でスクランブルコールをかけている囚人監視官に近づきおもむろにタックルを仕掛けた。囚人監視官は突然のタックルに不意を突かれ転倒し受話器を落とした。すかさずデビルレイは受話器を奪い取りアルテミス・ハイウェイパトロールのオペレーターにこう告げた。
「……何も聞かずにアルテミス・エンタープライズの保安部に話をつないでくれ……ちょっとした取引をしよう……」
キギザキのリタイアに最後尾の煽情的トレーラーからの通信強制切断……トビカワのメンタルはもうボロボロであった。目から涙が流れ、走馬燈めいてブルータル・ベルセルク・ゾクの栄光が脳内再生されていた。
「トビカワさん! ファントム・キャリッジから距離が開いてしまったでやんすけど、これからどうするでやんすか?」
バンダナのバイクは心配した顔でトビカワのバイクと並走する。
「お前たちは急いでハイウェイパトロールから逃げろ! 俺はスカムアーバンレジェンドと決着をつける」
「トビカワさん、それは無茶でやんす!?」
「これは俺とスカムアーバンレジェンドとの問題だ! お前たちは関係ない!」
バンダナはトビカワの顔を見た。全てを失った男の目だった。バンダナはトビカワの底知れぬ悲しみと凍てつくような怒りを感じ取ったのだ。トビカワは覚悟を決めているのだ。
「そこまでの覚悟ならトビカワさんを止めれないでやんす……せめてこれを俺だと思って使ってほしいでやんす!」
そう言ってバンダナはトビカワにC4爆弾を投げ渡した。
「それがお前の気持ちか! 俺はスカムアーバンレジェンドに最後の決着を決めてくる! 地獄の果てでまた会おう!」
そう叫びトビカワはニトロブースト! ハイウェイの彼方に消えていった……
……アルテミス・エンタープライズ社の内情について一介のドライバーであるウィルバーには何もわからなかった。企業連の内情は時計機構並みに複雑である。保安部のことを完全に理解できるのは保安部の人間のみである。
ウィルバーは激高する囚人監視官を必死でなだめ、デビルレイが現状を解決できる可能性があることを説明した。当然ながら囚人監視官は納得しなかった。しかしウィルバーはあきらめずに説得を続け、渋々ながら囚人監視官はデビルレイの行為を認めた。やがて交渉が終わったのか、デビルレイがアルテミス・エンタープライズ社の通話を終えてウィルバーと囚人監視官の前に姿を現したのだ。
「……アルテミス・エンタープライズの保安部の担当者が話が分かる人間で助かった……じきにに企業連の救急車がやってくるだろう……そいつに紛れて電算車がやってくる……オレと運転手さんはそれに乗ってファントム・キャリッジの制御プログラムを攻撃する……フヒヒ……やがて……ハイウェイパトロールがやってきてファントム・キャリッジはお陀仏さ……」
デビルレイはウィルバーたちを見つめ、そういった。自信に満ちた声色だった。
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