第772話 愚かな魔王


 ゴロン


 俺がログインすると、目の前に生首を転がされた。


 ん、俺ログインするゲーム間違えたのか? 一応、VRのゲームは一つしか持っていなかったと思うのだが、誰かが間違えて俺のゲーム機にソフトを差し込んだのだろうか?


『…………』


 この空間に沈黙が発生し、瞬く間にばを支配する。素晴らしい制圧力だ。そして目の前にはごっついモンスター、アシュラがいる。


『ど、どうしたんだアシュラ?』


『ご主人様の為に、熊を倒してきました』


 俺の為に熊を倒してきた!? 俺はいつそんなことを頼んだのだろうか。もしかして、誰かが勝手にログインしてこっそり魔王を演じていたのだろうか?


『な、なぜ熊を倒したんだ?』


『はい、ご主人様が励めとおっしゃいましたので……』


 アシュラもこの場を支配する異様な雰囲気に呑まれてか、語尾がシュンとしてしまった。さっきまでは沈黙が支配していたのに、一体どういうことなのだろうな。


 というか、励めと言われたら普通、熊を狩って来るものなのか? それに関しては相場が良く分からないんだが、そういうもんなのか? そして、これは一体どうすればいんだ? どうするのが正解なんだ?


 俺とアシュラの間に気まずい空気が流れていると、どこからともなく俺の頭の中に念話が届けられた。


『ご主人様、今、もしかしてアシュラの対応に困っておられるのではありませんか?』


『うぉっ、ぺ、ペレか。なんで分かったんだ。確かに、今まさに困っている状況なんだが』


『やはり、そうでしたか……いえ、先程アシュラに強いモンスターを教えてくれ、と聞かれたので教えてあげたのですが、もしやと思いましてね。どうやらアシュラはご主人様の褒美が欲しいようなのです』


『ほ、褒美?』


『えぇ。ご主人様が皆に宣言されたすぐ後に私のところに来たのでまず間違い無いでしょう。ですから今回は褒美を与えておいて、これからのことはご主人様が指示してあげるのが良いのでは無いでしょうか』


『な、なるほど。そうしてみる。教えてくれてありがとうな、じゃ』


 まさかのピンチをペレが救ってくれた。


 なぜ、ペレが強いモンスターを知っていたのか、とか二人は仲良いのか、とか色々気になることはあるのだが、今は先に解決しなければならない問題が目の前にある。


『おー、アシュラ。俺の為に熊を倒してきてくれたんだな。ありがとう。じゃあ、褒美にSPをあげよう。これからはそうだな、もっと強いモンスターを十匹くらい倒したらまた来てくれ。お前が強くなることは俺にとってもいいことだからな。これからも頑張るんだぞ?』


『あ、ありがとうございます、ご主人様!』


 うん、アシュラも喜んでいる様子だな。これで一件落着のようだ。では、最後にアシュラに褒美を渡して終わりにするとしよう。


「【強制進化】」


 ❇︎


 次の日から、俺の目の前には大量のモンスターの頭が散乱することになった。アシュラだけではなく、全ての従魔たちが褒美欲しさにモンスターを乱獲してきたのだ。


 俺は、レベルを上げるために、SPを稼ぐために玉座を離れた。SPが全っ然足りない。

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