第561話 勇者爆誕


 今日はインド対ブラジルの日だ。俺はインドの代表として大活躍を期待されている。ここで期待に応えなければ漢が廃れるというものだろう。


 気合を入れて臨もう。そう、褌を締め直した俺はそのまま変な浮遊感に囚われ気づいたら転移していた。


「ここは……?」


 周りを見渡してみると、近くの砦と、辺り一面に広がる草原が見えた。これは一試合目と同じ、いや、少し違う気がする。


 運営はうまく騙しているつもりだろうが、俺の目は誤魔化せない。少し、草の背が高いのだ。


 まあ、良い。この俺の前では些細なことだ。そう、全てを蹂躙する俺の前ではな。


 では早速蹂躙開始と行こうか。……ん? みんな行かないの? あ、そうですか、ならまだ時ではないな。じっくり待とう。俺は待つこともできるのだ。なんせ俺は名将だからな。


「カタカタカタカタッ!」


 突如、私たちインドの軍勢の前に、魔物が現れた。見上げるほどに巨躯なその体に三対の腕と三つの顔、そして何よりも特筆すべきがその体の全てが骨でできているということだ。


 だが、骨だと言って侮るべきではない。俺の目は誤魔化せないぞ、こいつはかなりの強者だ、いや、猛者だ。こいつには慎重に立ち向かわなければならないだろう。英雄の俺ですら少し様子を見た方がいいだろう。


 そうしていると、一人の男が飛び出した。ふっ、浅慮な者だな。あんな化け物に単身で挑み、誰が勝てるというのだ。ここは一旦引くのが賢い判断というものだ。


 だが、俺のその判断とは裏腹にどんどんと味方の兵が突撃し始めた。


 おいおい、何をしているのだ一体。こんな魔物相手にそんな人数紙切れ同然だろう? そんな命を一瞬で燃やすんじゃない、そんな愚かな行為をしてなんになるのだ!


 だが、俺の思いも虚しくどんどんと兵が消費されていってしまった。そして、戦場も奥へ奥へと移り変わってしまった。


 くそ、これは間違いなく誘われている、何かあるはずだ。


 そう確信した俺は遠くから戦況を見ていたのだが、なんと、奥からも何かの魔物に引き連れられてこちらに大群が押し寄せてきているではないか! これは間違いなく乱戦になるだろう。これは不味い、どうにか知らせなければ。


 しかし、その戦場に俺が近付くわけにも行かない。俺が行ってしまえば俺の尊い命まで危険に晒されてしまうからな。


 クソ、この事実に気がついているのはおそらく俺だけだ。しかしそれを周知する手立てがない……!


 と、俺が苦悩していた時、黒き稲妻が地に降り注いだ。それも雨の如く幾千もの数が。


 これが目的だったのか、俺も気づいていたのだがタッチの差でしてやられたようだ。骨の魔物も消えており、味方、敵のプレイヤーもほとんどが消え去っている。


 そしてそこに一人の男が降り立った。ローブを被った怪しげな男だ。しかし、自分のことを魔王だと言いやがった。


 これは俺に対する宣戦布告なのだろう。大勢の人間はもうこの場にいない。残されたのは俺くらいなものだ。


 つまり、俺に向かった発言ということだ。


「ふっ」


 売られた喧嘩は買わねばならぬな。そう、勇者であるこの俺が、魔王を討伐する。


 魔王よ手首を洗って待っておるのだ。私が必ず……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る