第391話 男爵芋


 目の前には完全にラリった目をした、ゴッつい鷲鼻の、ぶくぶくと太った一人の男がいる。こいつは悪魔だと一目見て分かる、それほどの風貌だ。仮に悪魔じゃないとしても普通に人類に害を与えてそうだ。


 それにしても完全予約制とは悪魔のくせに敷居が高いんだな。いや、そうでもしないと情報が漏れたりして面倒臭くなるからか。悪魔の脳味噌で頑張って考えた方なんだろう。この娼婦館というのも、そうなのだろうな、まあいかにも悪魔っぽいのだが。


「お前、悪魔だろ」


「なっ……!? クククク、まさか知っててここまでくる阿呆がいるとはな。お前の死は決まってたが、もう万が一にも生きて帰ることはない。何故なら俺がお前を食って、一生苦しませてやるからよぉ!」


 そういって、目の前の男は本来の悪魔の姿に戻り、俺に襲い掛かってきた。どうやら悪魔になっても気持ち悪い目と鷲鼻とデブは変わらないようだ。ってか、こうして人間に化けているときの姿と悪魔の姿を見比べてみて分かったのだが、人間の時もほぼほぼ悪魔だったな。皮膚の色とか質感が違うくらいじゃなからろうか。


 まあ、悪魔は所詮悪魔ってことなのだろう。もしかすると、もう少し上の位の悪魔になってくるともっと擬態が上手かったり、悪魔の時点からスタイリッシュなのだろうか。


 そんなことをボケッと考えていると、悪魔がもう眼前に迫っていた。右手を伸ばし、俺の手を鷲掴みにしようとしている。スキルを使わなくても分かるくらいの単調さだな。


 それにしても今までと比べてかなり落ち着いている気がする。イベントの時ですらもう少し緊張なり興奮なりしていたきがするのだが、俺もこのゲームを通じて成長したのだろうか。


 もう、相手の右手が俺の顔に触れるか触れないかという寸前にまで迫っていたのだが、俺があるスキルを発動した。


「【猫騙し】」


 すると、俺の体がいうことを聞かなくなった。どうやら自動で操作してくれるようだ。


 右手が俺の目の前にあるということは、必然的に相手の顔も近くなるということであり、更に、たまたま身長まで近かったため、俺は直立した状態から、両手を伸ばし、手を叩く、という動作をとることになってしまった。


 バチんっ!


 しかしそれは最小の動きで最大の効果を発揮することとなり、


「うわぁああ!」


 相手の動きを硬直させ、更には退け反らせることにまで至った。


 おおー、まさかこのスキルが役に立つとはな。完全にネタだと思ってたんだが、ここまで効くとはな、まあダメージは入ってないだろうが、一瞬でも硬直してくれれば十分だな。


「【魔闘支配】」


 俺の猫騙しによって体を退け反らせていた悪魔に対し、俺は最速で詰め寄り、まずはお腹に向かって、ローキック。弛んだお腹には効果がないかもしれないが、無性に蹴りたかった。


 うん、やっぱり効いてないが構わずにいく。もう硬直したんだからターンを返す気はない、このまま攻め続ける。お腹を蹴って、少しでも蹲った顔に向かって、しっかり潜り込んで相手のチンに向かってアッパーを撃つ、完全にクリーンヒットだ。


 そこからは、一方的だった。


 ひたすら殴る蹴るを繰り返している俺に対して、反撃を試みようとするも、全て見抜かれ、躱され、反撃される悪魔。結果は見るまでもなかった。




 ……あれ、男爵って弱いな。

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