死にたがりが逝く!〜ステータスを振らない男の無双譚〜

magnet

第1話 ゲームスタート


「あぁ、もうだめだ。死のう……」


 俺は彼女に振られた。もう、生きる希望も意味もない。もう、死ぬしかない。



 ……でも、死ぬの怖い。



 え、死んだらどうなるんだ? えっ、怖っ、嫌だ嫌だ! そもそも痛いの嫌だし苦しいのも嫌だ、どうしよう。


 どうにか楽に死ねる方法はないか? 首吊り、飛び降り、毒盛り……どれも痛そうだな。


 ってか死ぬとか全部痛いか、苦しいだろ!


 じゃあ、どうすればいい? 痛い、苦しいが嫌ならそれに慣れれば死ねるのか?


 ……慣れるってなんだよ、どうすんだよ。死の擬似体験とか無理だろ、死ぬ手前までいって止めるとか? 溺死とかなら出来そうだけど、苦しいのいやだからそもそもしたくない。


 ん? 擬似体験? ……体験? なんかどっかで聞いたことあるような?


「あっ、VR! 最近噂の最新技術を駆使して、現実世界とほぼ同じ体験ができるらしいし、これを使えば普通に死ねるじゃん、生きたまま!」


 おー! まさしくこれだな、これしかない! これを使って死ぬことに慣れよう! よしそうと決まれば早速行動だ!!


 んー話題のゲームはこれかー、なになに『numerous star online』か、沢山の星? プレイヤーを星に見立ててるのかな? なら俺も一つの星として華々しく散るか。


 意外と値段高いし、ゲーム機は更に高いな……まあ彼女がいなくなった俺には今まで消えてた分がそのまま残るから、金には余裕がある。まあどうせすぐに死ぬからそもそも関係ないしな。


 家に帰ってゲーム機を開けた。この最新型のゲーム機は、頭にすっぽり被るヘルメットの形をしている。これで脳に信号を送るらしい。まあ難しいことはわからないが、とりあえず向こうでリアルな体験が出来ればそれでいい。



「ゲームスタート!」



 うわっ、急だな……ここはどこだ? 真っ白な四角い部屋だ。もはや四角いのかも怪しいが。


「ようこそ、『numerous star online』へ! これからキャラクタークリエイトを行っていただきます。決定する事項は名前、容姿、種族、初期ステータスとなります。早速お名前をお伺いしてもよろしいですか?」


 声がどこからか聞こえてきている。いわゆる天の声という奴だろうか。んー名前は適当でいいか。


「ライト、でお願いします」


「ライト様、ですね、かしこまりました。では、容姿を設定します。また、容姿は種族、ステータスの設定によって変更する恐れがあるため、飛ばして最後にすることも可能です」


 目の前に俺が現れる。


 見た目は本当にどうでもいいな。でも全く同じというのも誰か知り合いとかがいた場合にバレたくはないから、嫌だな。


 自分から沢山死ににいくわけだし、適当に弄るか。まず目を茶色よりも明るい黄土色くらいにして、髪の毛は長いと邪魔そうだから今より少し短くして、今度は赤毛にする。


 俺は黒目、黒髪だからこういうのに少し憧れていたんだ。まあ、こんな感じでいいか。印象が少し変わってパッと見わからなければ大丈夫だろう。


「次は種族をお選び下さい」


 種族かー。まあだいたい選ぶのは決まってるんだが、んーどれどれ……


・ヒューマン

・エルフ

・ドワーフ

・獣人


 この四つらしいな。俺の目的は死ぬことだから、なるべく現実の自分と近い方がいいだろうし、普通にヒューマンにしよう。


 他の種族をタップすれば説明が見れるらしいがめんどくさいし、流石にこのくらいなら何となくイメージはできる。


「種族を決定されたので、次はステータス設定です。ステータスとはSTR、INT、……


 あっ、これ長いやつだ。まあだいたいわかるから聞き流すかー。とりあえず50ポイントあるステータスポイントを好きに割り振れるようだ。


 まあ、あんまり俺には関係ない、なぜなら俺はステータスをいじる気がないからだ。ステータスを割り振って死ににくくなってしまっては本末転倒だからな。


 ステータスには何も触れない!


「ライト様、本当にこれでよろしいのですか? 余ったステータスポイントはプレイ中に割り振ることもできますが……本当によろしいですか?」


 天の声さんが相当戸惑っているな。


 まあステータス割り振らない奴なんてなかなかいないだろう。ってか俺ぐらいだろうな。だって、普通にプレイするにはステータスは高ければ高いほどいいだろうからな。まあ気にしたら負けだ。


「はい、大丈夫です」


「わかりました。では、以上の内容で最終チェックを行います。この段階での変更は可能ですが、それ以降は変更不可となりますのでご注意ください。」


 うん、特に気にならない、ほとんど何も設定していないようなもんだからな。


「大丈夫です」


「では、これにて最終決定とさせていただきます。最後に、この世界について説明します。この世界は……


 あっ、これもまた長いやつだ。適当に大事なところだけ抜き取ると、この世界は剣と魔法の世界で、スキルがあって、それは自分の行動によっていろいろゲットできるらしい。


 初期で基本的なスキルは簡単に、どんどん成長して強くなればなるほど、取得条件が難しくなるようだ。まあ、俺には関係ないな。


 あと、称号なんてものもあるらしい。


 自分の行動によって貰えたり、イベントの結果に応じても貰えるらしい。効果は良いやつもあれば、全く無い飾りだけのやつもあるとか。まあ、これも関係ない。


 ってか世界観説明が長い。NPCが人間とほとんど同じように生活してるって事に関しては驚いたがどれも関係ないな。


 ってか死ぬためだけにゲームする奴に、関係があることのほうが少ないだろう。


「では、『numerous star online』の世界をお楽しみください。あなたの冒険が輝かしいものになることを願います」


 やっと終わったようだ。これでやっと死ににいける。おぉー、体が白く薄くなっていく……




ーーー称号《無謀なる者》を獲得しました。


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