未来の探訪王は留年生!? ダンジョン学園の四留生徒、実は世界最強の男だった
ベッド=マン
第1話
2020年、4月。
北緯34度、東経134度、兵庫県南あわじ市、俗に呼ばれるところの淡路島南部にて謎の広域発光現象が起きる。
直径二キロ程に及ぶ光は丸一日続き、光が晴れるとそこには巨大な大穴が姿を現していた。
その大穴は地獄にでも繋がっているのか。あまりにも広く深いそれは、地上からではその底を知ることも出来ない。
すぐさま国から調査隊が派遣され、その報告が世間に公表されるまでに約一年の期間。
当時の首相は、海外メディアも集まる公式会見にて次のような一文を読み上げる。
「調査の結果、突如として出現した巨大洞穴の奥底には奇妙な地下空間が続いていることが確認されており、また、空間内においては人工物らしきオブジェクト、未発見の新種の生物についても複数報告を受けております。
さらには現代科学ではとても解明出来そうにない……」
その後も会見は続き、大穴の内部、その様子が明らかになっていく。
続いて、先程述べられた新種の生物、その一例として捕獲された一匹の小人の映像が流された。
尖った耳、濃緑の肌、人ほどの知性を感じさせない振る舞い。
そして、その小人と戦闘を行う隊員の映像。そこにはまるでCGや動画編集でも行ったのかと疑いたくなるほどの衝撃の光景。
隊員の手の平から爆炎が発せられるという映像が会場のモニターに写し出されていたのだ。
語る本人達は極めて真剣に事実だけを述べている。しかし人々は聞くほどに、あるいは見るほどに思った。
それ、ダンジョンじゃね? と。
また。
モンスターじゃね? と。
またまた。
魔法じゃね? と。
結論から言えばその認識は間違っていなかった。
紀元前から続く歴史の末、人類はダンジョンと対面したのだ。
人々は歓喜した。
スクリーンの向こうの出来事でしかなかった夢と冒険のファンタジーが、自分達の住む世界に現れたのだからそれも当然だ。
だから人々は我先にと冒険者になり、まだ見ぬ世界に飛び込む……
とはならなかった。
現実というのは非常につまらないもので、ダンジョンを目の前にする世界が取った行動はその利権を巡って争うというものだった。
水面下で行われる小競り合い、どこぞの国に雇われた傭兵が国内でテロを起こすことも少なくない。
アメリカ、中国、そして日本。
表立っては主にこの三国によってダンジョンを取り争うこととなり、一時は武力的手段が用いられるところまで事態が悪化することとなった。
しかし国連加盟国がこれに介入。そこから三年協議がなされ、その結果ダンジョンはどの国の物でもない、新たに設立される独立国家の管轄であると決定された。
淡路島全域が新たな国となり、つけられた名は「エーデア」。 かの基督教の旧約聖書にて語られる楽園「エデン」がその語源である。
この命名についても兎角言い争われることになったがそれはまた別の話。
エーデアは設立に伴い、ダンジョンのもたらす利益に欲をかく先進諸国に向けて五つの条約を宣言した。
一、自国はいついかなる場合でも国家として正当かつ対等な立場にあることを主張する。
二、迷宮内にて発見される情報の秘匿、資源の占有を行わないことを約束する。
三、魔法、技術の軍事転用。 また、それを目論む国家、組織への協力行為を行わないことを約束する。
四、迷宮内における情報、資源を社会へ還元するため自国は率先して個人の迷宮探索を支援する。
五、一を除く三ヶ条の確約をより強固なものとするため、政府主導で探索者育成機関の創立、運営を行っていく。
最後の条文にて記載された探索者育成機関。 文面だけでは読み取りづらくあるが、つまりはダンジョン学校を作るということである。
エーデア迷宮学園。
探索、研究。ダンジョンにおけるあらゆる方面のエキスパートを育成し、ダンジョンの管理を一任された代償として人材という形で世界へ利益を提供する教育機関。
この学園はさらに魔法や技術を悪用した犯罪の抑制にも貢献しており、ダンジョンへ入ることの出来る人間を選別する役割も兼ね備えている。
ゆえにダンジョンは、学園の在校生、教員、もしくは特別な許可を得た卒業生でなければ入ることも許されておらず、結果としてダンジョンが原因となって起きた事件数は学園創立から50年経った今日でもゼロとされている。
ここに、一人の男がいた。
椿井天晴、エーデア迷宮学園中等部一年。
満16歳。 四留だ。
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