王冠花くじらの真実─前編─

───ある貴族の家に、双子の姉妹がいました。

姉は大人しく、読書が好きでした。

妹は勝気でしたが、体が弱い子でした。

そんなある日、王さまのお妃を選ぶ舞踏会が行われました。

姉妹も招待されたのです。

妹は王さまを見るなり、一目惚れしてしまいました。

……けれど、選ばれたのは姉でした。


「姉さんは健康だから選ばれただけよ。悔しい……」


盛大な結婚式の翌年、姉はお姫さまを産みました。


「あたしが健康だったらあたしが産みたかった……」


妹は日に日に病んでいきました。

姉が知っていて、妹が知らないことがありました。

それは、王さまには愛情がないこと。

妹が言うように、ただ健康であればよかったのです。

お姫さまを愛していた姉は、おなじくらい妹も愛していました。

妹を健康にするにはもう、『王冠花くじら』に頼る他ありませんでした。

しかし、『王冠花くじら』に願いを叶えてもらうことはすなわち、『王冠花くじら』になること。

幸い、姉妹はそっくりでした。

だから、姉は決意したのです。

妹にお姫さまを託そうと。

翌年の、お姫さまの誕生日。

その日が『王冠花くじら』の現れる日。

王子さまをまだ産んでいないため、まだ関心の薄いうちにと出立したのです。

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