eat

アフタヌーンティー

毎週金曜日にその店に行くのが私の習慣だった。

こじんまりとした品の良いその喫茶店は、こらでは珍しく本格的なアフタヌーンティーが味わえる店だ。


その日は初めて見る(おそらく新人だろう)ウエイトレスがそろそろとセットを持ってくる。ぎこちないのが逆に可愛い。


ポットからコップに紅茶を注ぎ、まずは一口。そしてケーキスタンドの一番下に手を伸ばす。

ここにあるのはサンドウィッチ。たまごやハムが挟まったその中に、キュウリだけが挟んであるものがある。

大して美味しいものではないが、これが正式なもの。


アフタヌーンティーが盛んだった頃は、キュウリを生のままで食べられるのは農園を所持している上流階級に限られていた。いわばこれは富と権力の象徴。

自分の財力を見せびらかすためだけに存在していたそのサンドウィッチがとても可笑しかった。

かの国の礼儀作法は、相手への気遣いではなく、マウントするための道具のように思える。

舞踏会なんて、作法一つで相手の階級がわかってしまうとか、なんとかかんとか。


よっぽど他にすることがなかったのかしら。

少し減った紅茶に砂糖だけ足して、私は二段目に手を伸ばす。


ここにあるのはスコーン。

これは女王様の台座を意味していて、縦に割ってはいけないのだそう。どちらにしろ形状を見れば縦に割ろうなんて気にはならないのだけれど。

真ん中から上下に二等分すると、クロテッドクリームとジャムをたっぷりのせる。スコーンはこのクリームとジャムをのせることによって完成する。単品で食べられるものは、後から食べやすく改良されたものだ。

私がこの店に来る大きな理由の一つが、このクロテッドクリームだった。最近は生クリームで提供するお店も多いけれど、やはりこのクロテッドクリームで食べるのがおいしい。

作る手間がかかる上、保存もきかないクロテッドクリームを自家製で出していることを考えると、このセットが少々お高いのも納得がいく。


半分に減った紅茶にたっぷりと牛乳を注いで、私は三段目に手を伸ばす。


ここにあるのはケーキ。一人前にしては多そうに見えるけれど、どれも見かけよりさっぱりとした甘さ控えめのケーキで、ペロリと平らげることができる。

お皿に乗った可愛らしいケーキを見てふと、とあるSNSを思い出した。

話題のお店や有名ドコロのスイーツの写真を、頻繁にアップする女のコたちがワンサカいる場所。

あれも、キュウリと同じ。

自分がいかに素敵な日々を過ごしているか、見せびらかすためのもの。


結局人のやることはどんな場所でもいつになっても変わらないのだ。



********



「店長、あの」

「あの方、お得意様だから」


だから失礼のないようにねと戸惑う新人に軽く注意をし、アフタヌーンティーのセットを運ばせた。

毎週金曜、窓際の席。

いつものように食事を終えると、細くて可愛らしい、けれど確かに男性のそのお客様は、いつも通り美しい所作で会計を済ませていった。

コツコツ、ヒールの音が遠ざかる。



国か、時代が違えば。

あの人はああも寂しげに微笑むこともないのだろうかと時折私は考える。

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