第250話
白銀に輝く長剣は風を突き破りながら振り下ろされた。
対する魔法の剣は、魔法の剣と言っても見た目はただのロングソードにしか見えないのだが、その剣で一振り斬り上げれば上昇気流を生じさせた。
そんな2つの剣が激しくぶつかり合い、周囲を轟音と衝撃波が襲う。
打ち合っている当人達の髪と衣服が、バタバタと音を立ててはためいていた。
殆ど同じ勢いで振り抜かれる2つの相対する剣はそのまま二連撃、三連撃と打ち合うがお互い決め手に欠けている。
長剣の持ち主達は互いに距離を取り、しかし相手が踏み出してくるのならばいつでも対応できるよう構えながら、仕切り直した。
シルヴィアは闘技場全体で起こっている戦況を案じたが、直ぐダーマ王国の選手に意識を戻す。
──まさか、これ程とは……来たか!
アベルは上段に構えながらシルヴィアに向かっていく。
対するシルヴィアはその場にとどまり、下段に構えて迎え撃つ算段だ。
──私の間合いに入ってくれば……
シルヴィアの視界には境界線のように自分の剣が届く範囲が見えている。
──もう少し……
まるで、自分の間合いだけが色づき、外の世界はモノクロに映っているようだ。
アベルの片足がシルヴィアの世界に侵入してきた。
──今だ!
シルヴィアは下段からアベルの喉元目掛けて斬り裂こうと、その長く美しい腕を伸ばしたが、アベルはシルヴィアの間合いに入った瞬間、バックステップで間合いの外に出た。
シルヴィアの剣先は空を斬る。
──なに!?
アベルはバックステップで着地を決めるとその場で上段から魔法でできた剣を振り下ろした。
大地が抉り出され、礫と化し、シルヴィアに襲い掛かる。
さらにアベルは直ぐ様、大地を割ったその剣を斬り上げる。風圧で竜巻を発生させた。
竜巻は礫を飲み込み、見るからに暴力的な風の渦がシルヴィアに襲い掛かる。
「剣技、土流螺旋斬」
シルヴィアは先程空を斬った剣を即座に引き戻し、目の前に迫る竜巻を斬ろうと試みる。
が、高速で回転する礫に弾かれ、諸にヒットする。
「ぐっ!!」
シルヴィアは空高く舞い上がり、上階にあるフルートベール国王のいる観覧席まで飛ばされた。
壁に叩きつけられ、ダメージを負うもフルートベールの戦士長や宮廷魔導士達に、誰が敵で味方であるのか教えることが出来たのは僥倖だった。
シルヴィアは脈を打つ度に頭が痛くなるのを抑えながら、叩きつけられた壁を足場に再びダーマ王国の選手に向かっていった。
自慢の脚力と落下スピードが上乗せされる。今度はアベルがその場にとどまり、空から降る雷撃のように突進してくるシルヴィアを迎え撃った。
ギィィィィィィン
耳をつんざくような音が発生し、閃光が散った。
それには全く興味を示ず、シルヴィアは歯を食い縛り力を込める。
アベルの両足は地面にめり込むように沈みゆく。
「くっ!」
物凄い力で押され、身動きの取れないアベルの背面に向かって追い撃ちをかけるように魔法を唱える者がいる。
「フレイム!」
魔法を唱える甲高い声の持ち主はヴァレリー法国魔法兵団副団長によるものだ。
アベルは首を回し、無防備な背中に向かって飛んでくる火炎に目をやった。
──よくやったエミリア!
シルヴィアはそう思ったその時、アベルの剣が風をたゆたう塵のようにその姿を消した。
「なにっ!?」
せりあっていた剣が突然なくなり、アベルが身を翻した為、シルヴィアの全体重と腕力が乗った攻撃は大地に突き刺さる。
アベルは再び剣を顕現させ、向かってくる火炎を斬り、打ち消した。
しかし、打ち消したその先には術者の姿がなく、シルヴィアの方に再び体勢を向けようとしたが、腹部に衝撃が走る。
「ぐっ!」
アベルは飛ばされながら、衝撃の正体を理解した。
シルヴィアが突き刺さった長剣を軸にして蹴りを入れていたのだ。
5メートル程飛ばされたアベルは受け身をとる。
シルヴィアはエミリアに言った。
「ブライアン議長は?」
「一般の観客席で寝たふりをしてもらってます!」
シルヴィアは地面に刺さった剣を引き抜き、頼りになるサポートがやって来たため、ここでようやく闘技場全体の様子を垣間見ることができた。
冒険者やヴァレリーとフルートベールの魔法学校の生徒、教師達、フルートベールの兵士や貴族の護衛が戦っている。
敵の数はそこまで多くない。
「非戦闘員には手を出していないのだな……騒ぎももう少しでおさまりそうだ」
シルヴィアは呟き、エミリアはそれに同意しようとしたその時、直ぐ近くにある瓦礫同然のリングの上をピョンと飛びながら歩いている少女が見えた。
「あれは……もう一人のダーマの選手……」
シルヴィアはその白髪をツインテールにしている少女を見て呟くと、吐き気をもよおした。隣にいるエミリアは膝を合わせながらその場にへたりこむ。
「ぁ……ぁ……」
怯えからくる震えで声帯を鳴らしているエミリア。
「なんという……殺気……」
『私が手も足も出ずに敗北した帝国の者だ』
剣聖オデッサの言っていたことをこの時ようやく理解できたシルヴィアは自分を恥じた。
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