第168話
<ダンプ村>
ロバートは地面に這いつくばる。
「くそっ!何故だ!?何故お前のが強い!?」
「わからない。フィルビーを抱き締めたときに不思議な力を感じたんだ」
「ウガァ''ァ''ァァ!!」
ロバートは自分がダルトンに手も足も出ないことに嘆き叫んだ。
うつ伏せとなったロバートの背中に手を当てるイアン。
「ロバート…また一緒に生きよう」
「…俺はお前のことを……」
「良いんだ。ロバート。悪いのは戦争だ」
イアンが優しく声をかける。
ダルトンはフィルビーを抱き締めながらとある疑問を口にする。
「どうしてフィルビーはここに?」
「ハルお兄ちゃんが連れてきてくれたの」
フィルビーはハルを見る。ダルトンはフィルビーの視線の先に焦点を合わせた。ハルはダルトンとフィルビーに近付き、声をかけようとしたがダルトンに遮られた。
「ありがとうございます」
ひれ伏すようにして謝意を述べるダルトンにハルは言った。
「今、様々な疑問が君に浮かんでいると思う。僕はハル・ミナミノ。フルートベール王国から来た。この獣人国の反乱はフルートベール王国に多大な損害を与えるんだ……」
ハルは説明する。フィルビーと出会った経緯と反乱軍にしたことを。
「今、サバナ平原では反乱軍の左翼が崩れ、それを立て直す為に進軍を諦める。そして明日、反乱軍は崩壊する」
「ッ!?では俺達が勝利するんですね!?」
ハルは頷くとダルトンは喜んだ。
「貴方は英雄です!是非御礼を!!」
ハルは手を前へ押し出してダルトンを制する。
「これはまだ初めの戦に過ぎない。僕が反乱軍にやったことは決して他言してはダメだよ?ダルトン、君を信用してるから僕は全てを打ち明けたんだ。それに……僕より強い者達が帝国にはたくさんいる。彼等を出し抜くには暗躍し続けないと勝てない」
「仰せのままに……それで、俺はこれからどうすれば?」
「君は今とてつもなく強くなった。これから君は各国にある難民キャンプから君達の同郷の者を探して、オセロ村の再建に勤めるんだ。それが君のやりたいことだろ?」
「はい……」
ダルトンはどうしてそこまでわかるのかと疑問に思いながらハルの言うことを聞いている。
「また会いに来るよ。フィルビーにもね?」
ハルはフィルビーを見やると、フィルビーはハルの元にやって来て飛び付いた。
「ありがとう……ハルお兄ちゃん……」
フィルビーのこの行為で一度戻ってしまったのを思い出す。フィルビーは涙を流しながら感謝を述べた。ハルは頭を撫でながら次なる目標の為獣人国をあとにした。
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サリエリは輝く水晶玉の前で腕を組む。
『起こりうる最悪の事態が、起きてしまいましたね』
最悪の事態と言いながら冷静さが際立つ喋り方でマキャベリーの声が水晶玉から聞こえた。
「う~む……あのような集団催眠は前もってかなりの準備が必要なはずじゃ……或いはヒプノシスを何百人単位でかけなければ……む~謀反や密偵などにはかなり気を付けたはずなんじゃが」
『いえ、サリエリさんのせいじゃありませんよ。私も昨日まで気づきませんでした……』
暫しの沈黙が続く。マキャベリーが静かに自身の考えを口にした。
『……フェイスフルをかけたと考えられませんか?』
マキャベリーから突拍子もないことを言われ、サリエリは狼狽した。
「そんな!?それを唱えられるのならばこんな回りくどいこと等せず、別のやり方を選びますぞ!?」
サリエリはそう告げると、マキャベリーは黙った。水晶玉の向こうで黙考しているマキャベリーの姿が想像できる。
『…仮に……我々と実力が拮抗する者が暗躍していると想定し、その者が自身の姿を悟られずにこの反乱を終わらせようとしていると考えればこの行動も説明できます』
「し、しかし!!それを想定するのなら何故今ごろになって!?」
『……あくまでも仮説です。それよりも今回の反乱は諦めましょう。正体不明の者が暗躍しているのならばサリエリさんを捕らえようとするかもしれません。此方も手を回しますのでサリエリさんは姿を隠してください』
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日が落ち、手に持っている松明の灯りが辺りを照していた。サバナ平原に敷き詰められた下草が風で揺れ、涼しげな音を立てる。反乱軍は左翼の乱れの修正に中央軍と右軍はあくせくし、思ったように進軍ができなかった。対して獣人国軍は守りを堅めながら、反乱軍左翼を切り崩し、善戦している。
ヂートは任された左翼が切り崩されたことにより中央軍と合流し、そこで体力がきれかかるまで戦った。そのせいで、今は疲労でふらふらだ。
「ったく、何が起きてんだよ……」
ヂートは任された左翼がやられてしまったことに負い目を感じている。言うことを聞かない左翼から、ヂートはやむなく離脱してしまった為に、崩壊の一途を辿った左翼の様子を見に行った。脚に付いているサリエリ特製の魔道具が怪しく光る。
ヂートは遠目からたくさんの反乱軍の兵士が倒れているのを確認する。そしてその奥に陣どっている獣人国軍を見て復讐を誓った。
──この借りは必ず返す……
ヂートは名残惜しみながら中央軍の野営地に帰ろうとすると、その道中霧が辺りを包みこんだ。初めは気にもとめていなかったヂートだが、霧の濃度が高くなってきたことに疑問を持つ。
──おかしい。雨期ならともかく、この霧はどこかおかしい……罠か?しかし誰が?まぁなんでもいい、俺にはこの魔道具があるんだ
ヂートは異変に気付きつつも歩みを止めなかった。霧の中を魔道具を使って走り抜けようとしたが、一筋の矢がヂートを襲う。
「おっと!」
ヒラリと躱したヂートは矢が放たれたであろう場所を凝視した。
「おいおい!しゃらくさいことしてないで出てこいよ?」
もう一度、矢がヂートに向かって飛んできた。今度は正反対の場所から。
──囲まれた?二人いるのか?
すると今度は前後左右から4本の矢が放たれる。
「ちっ!何人いんだよ!?」
悪態をつきながらそれでも、簡単に4本の矢を躱すと、またしても異変に気が付いた。さっきよりも霧が更に濃くなっていた。1メートル先も見えにくい状況で今度は前後左右に加え上空からも矢が降ってくる。
「何なんだよ!」
ヂートはギリギリでそれらを躱したが自分がよけた先にまたしても大量の矢が襲ってくる。もう躱しきれないと悟ったヂートは得意の蹴りで矢を破壊しようとしたが、矢は煙のように形を燻らせた。
「幻…?」
そう思ったのも束の間、先程まで矢の形をしていたモノがヂートの身体を包むように覆った。
「ちっ!なんだこれ動けねぇ!!」
動けなくなったヂートをまたしても矢が襲う。顔面に飛んでくる矢に対して、またかよ!とヂートは思ったがそれが最後の思考となった。
顔面に飛んできた矢はヂートの額を貫き、ヂートは絶命した。倒れたヂートの脚に装着してあった魔道具を回収した獣人国宰相ハロルドはその手にハンドアックスとグローブ型の魔道具も持っていた。どれも反乱軍の幹部が身に付けていたモノだ。ハロルドはそれらをアイテムボックスにしまい王シルバーのいる城へと戻った。
翌日……反乱軍は崩壊する。
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