第25話 誰かのために
~ハルが異世界召喚されてから4日目~
MP 0/86
ハルは倒れた。
スタンの口元を覆っていた水の塊が霧散する。
「ブハァッ…ハァ…ハァ」
スタンは一気に空気を取り入れた。そして唱えていたファイアーエンブレムを解く。スタンのMPも残りわずかだった。
──まさか1年のBクラスのやつに追い詰められるとは思わなかった…でもこれでおわりだ……
ルナも膝をついて肩で息をしている。
「ハル……くん…」
ルナは涙を浮かべながら、回復魔法を施そうとするも、MP不足によりそれもかなわない。
スタンはふらつきながらルナの元へ歩く。倒れているハルを横切り、歩みを進めるが、
ハルはスタンの足を掴んだ。
「なっ!くっ離せ!」
スタンはハルの手を振りほどく。
MPを失うと気絶するのが当たり前なのだが、よろよろと立ち上がるハル。
「…っんな!まだ立つのかよ!?」
ハルは全身に火傷を負いながらも立ち上がった。
今にも倒れそうなハルを見てスタンは思う。
──俺のMPももう限界だ…どうするべきだ?
スタンが考えていると、ルナが呟いた。
「どうして……」
ルナはハルの姿を見て言った。
「…もう…もういいよ!立ち上がらなくていいよ!倒れたままだったら見逃してくれてたかもしれないじゃない!!」
ルナが珍しく叫んだ。そして、ルナは戦争のことを思い出していた。
腕を失くし、足を失くし、それをルナが治療して、また戦場に行く戦士たちのことを。
「ぃ…いつか……ルナさんが言ってた……」
ハルは焼け焦げた声帯でぎこちなく声を出す。
「ぇ?」
「死ぬような体験は…1回だけでいいって……」
ルナはそんなことをハルに言った覚えがなかったが常々そう思っていた。
「…でも僕は、あなたの…為なら何回だって……死にに…行きます………あなたの為なら何回だって…立ち上がってみせます……」
「っ!?」
ルナは溜め込んでいた涙が一筋、頬を伝う。そしてある戦士のことを思い出した。
◆ ◆ ◆ ◆
「このまま…負傷兵として離脱してください!!もういいじゃないですか!?貴方は十分戦いました!!だからもう……」
右腕と右足を失くした戦士にルナは提案、というよりも懇願した。
「聖女様…あんたには……大切な人は……いるかい?」
こんな状況で、と思いつつもルナは大切な人、自分を育ててくれた両親と孤児院の子供達、友人達の顔が浮かぶ。
負傷兵は続けた。
「俺にはもういないんだよ……何もかも…無くなっちまった…だけど大切なモノならまだ残ってる……それはこの国さ…この国の為なら、俺は何度でも戦ってみせる」
◆ ◆ ◆ ◆
他の負傷兵達も口々に家族の名前、友人の名前、恋人の名前を口ずさみ戦場へ向かって行ったのをルナは思い出した。
そして子供の頃、大好きだった絵本『ララのお仕事』のとあるシーンを思い出す。
【魔法を使いたくない、もう惨めな自分を見たくないから。それでも、大好きな彼を救うため、彼のためにララは再び箒にまたがり浮遊魔法を唱えたのです】
込み上げてきた内なる想いは気付けば声に出ていた。
「っ…私だって……」
ルナは俯きながら。
「…誰かの…為に…」
ゆっくりと、
「…みんなの為に!」
立ち上がる。
「戦ってみせる!」
ルナは自分の魔力が溢れ出すのを感じた。その魔力の勢いのせいで溢れていた涙が弾け飛ぶ。
「これは…どういうことだ?」
スタンは焦っていた。MPも切れかかったにも関わらず、これ程の魔力を宿した相手と戦うのは無理だ。優秀であるからこそ見切りが早い。
ハルは意識が遠退いていた。自分は立っているのか横になっているのかも今はわからない。
ただ物凄い魔力だけを感じる。
──いったい誰が……
そして出入口付近で人の声が聞こえてきた。足音が騒々しく近付いてくる。
「大丈夫ですか!?…スタン先生!?これは一体……」
──助けが来た……
ハルはそう思うと。
ピコン
新しいスキル『第二階級火属性魔法耐性(弱)』『第一階級火属性魔法耐性(強)』を獲得しました。
ゴーン ゴーン
~ハルが異世界召喚されてから1日目~
いつもの場所に戻った。
HP、MP、SP、魔力、抵抗力が3、筋力が1上がっていた。
──また死にそうになって助かったか……
助けが来た時の喜びか。それとも好きな人が助かった喜びか。それはわからない。
ハルは図書館へと向かわず街中を歩いて喧騒に溶け込んだ。
一命を取り留めたものの、ある疑問が渦巻く。
どうしてあのスタンがスパイなのか。あの時は感情が先行して、スタンを倒すことしか考えられなかったが、現在冷静になるととても信じられない
自分を優しく慰めてくれたスタンを思い出していた。
──それにどうすれば勝てる?ウォーターと風属性魔法の並行魔法?って言ってたな、それを使うか?いや、それじゃあ……
勝てるビジョンが思い浮かばない。考えているだけで時間は刻一刻と過ぎていく。
「…もし?……もしもし?」
「へ?」
気が付けば街の中で、机を出してその上に水晶玉をのせてる山高帽を被った英国紳士のような格好をした者に話し掛けられていた。
「やはぁりこれは運命です。私と貴方が出会ったのは……」
「ん?」
「私は占い師をやっております。貴方…何かに悩んでますね?」
ハルは占いによる常套句を知っていた。人は誰しも何かに悩んでいる。それを的中させるのは造作もないことだ。
しかしハルはこの世界に於いて占い師がどんなことを言うのか興味があった。
──もしかしたら魔力を駆使して未来が見えたりするのかな……
もしその助言に信憑性があれば実践してみるのも良いし、そうでなければ流せばよい。
ハルは辺りを見回して、通行人がいないことを確認した。占い師の前に座っているのを見られると他人の視線が気になる。それを見た通行人がハルのことを非科学的で愚かな存在だとレッテル貼ることにハルは抵抗を感じるのだ。
ハルは少しばかり勇気を出して占い師の話を聞いてみた。
「はい…悩みがあります」
「やはぁり!」
オーバーなリアクションをする占い師は続けた。
「あなた…ここへ来てまだ日が浅いですね?」
「はい」
「やはぁり!私には見えておりますよ?これは運命なのです!私は貴方が何をすればその悩みを解決できるか知っております」
──やはりのイントネーションが気になるが……
「どうすれば解決できるのですか?」
「それは……」
占い師は勿体ぶる様子で続ける。
「それは貴方がここへ来る前につけた知識を使うのです!!」
「…はあ…具体的には?」
「具具具具体的にはですねぇ…ゴホ…えっと……ちょっとゴホッ……今…急に体調が……」
──わかんねぇのかよ!
「それよりも私のお話を聞いたのだからお金を下さい」
「え!?お金は……それよりも体調はどうしたんですか?」
「なんだかよくなりました…」
──都合の良い体調だな!
ハルは黙って脚に魔力を込めて走り去った。そんなハルの姿が遠くへ行くのを眺めがら占い師の男は呟いた。
「またお会いしましょう…運命が導くときに」
【名 前】 ハル・ミナミノ
【年 齢】 17
【レベル】 8
【HP】 93/93
【MP】 89/89
【SP】 114/114
【筋 力】 58
【耐久力】 75
【魔 力】 77
【抵抗力】 73
【敏 捷】 71
【洞 察】 74
【知 力】 931
【幸 運】 15
【経験値】 100/900
・スキル
『K繝励Λ繝ウ』『莠コ菴薙�莉慕オ�∩』『諠第弌縺ョ讎ょソオ』『閾ェ辟カ縺ョ鞫ら炊』『感性の言語化』『第二階級火属性魔法耐性(弱)』『第一階級火属性魔法耐性(強)』『第一階級水属性魔法耐性(中)』『恐怖耐性(中)』『物理攻撃軽減(弱)』『激痛耐性(弱)』『毒耐性(弱)』
・魔法習得
第一階級火属性魔法
ファイアーボール
ファイアーウォール
第一階級水属性魔法
ウォーター
第一階級風属性魔法
ウィンドカッター
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