第18話

~ハルが異世界召喚されてから4日目~


「さぁこれから皆さんには殺し合いをして頂きます」


 教室は静まり返った。


 ハンスが机を叩きながら叫ぶ。


「どういうことだ!」


「こういうことです」


 男はハルの前にいる男子生徒を指差したが、


「やめろ!!」


 ハルは立ち上がり教壇へと続く階段にでた。


 男は人差し指の角度を少し上げ、狙いをハルに定めた。


「ウィンドカッター」


 ハルは拳に魔力を纏い、一直線に空気を切り裂きながら首もとに向かって鎌鼬が迫り来る。


 ハルはそれを殴り付け、打ち消した。


 この時、どこかで爆発音が轟き、教室全体が揺れた。それに驚いた女子生徒が悲鳴を上げる。


 ハルと教壇にいる襲撃者は正面の敵を見据えたままだ。


 ラースはハルに手を伸ばして、呆気にとられていた。


 襲撃者の男が感心しながら口を開く。

 

「ほう、これを防ぎますか?…じゃあこれならどうです?」


 男はハルに指をさしたまま、その指の周囲に3つのウィンドカッターを出現させ、ハルに向けて放った。


 ──来たか……


 前回はこれが向かってくる途中で戻った。この予習なら万全だ。緊張しつつも風属性魔法をよく観察する。

 

 3つのウィンドカッターはそれぞれ首、胴、脚目掛けて飛んでくる。術者の男は余程人間をバラバラにしたいらしい。


 ハルは魔力を両手と右足に纏った。右の拳で首に向かってくるウィンドカッターを叩き壊し、今度は左の拳で胴に向かってくるそれをアッパーカットで打ち消した。最後の脚に向かって飛んでくるウィンドカッターを右足で蹴り上げて打ち消す。


 ──MPは?


MP 48/52


 ──よし!上手くコントロールできてる!


 ハルは魔法を弾いている最中に男が移動していることに気付いた。

 

 正直男が次に何をしてくるのか、というのとウィンドカッターの軌道が予めわからなければそんな余裕などなかった。


 またもどこかから爆発音が轟く。

 

 ──フフフ……中々筋の良い少年だが、やはり少年だ。私が連続で唱えたウィンドカッターの真意に気付いていない。それにこの騒音は私の狙いを背けるにはうってつけ……


 男は目眩ましに3つのウィンドカッターを放った直後、ミラージュを唱え、幻を教壇の前に出現させ、ハルの後ろに回り込んだ。ハルが連続でウィンドカッターを弾く姿を横目で観察する。


 ──やりますね……まぁ、正面で戦えば…ですがね?さぁこれで終わりです。


 ハルの後ろに回り込むと男は懐から刃物を取り出す。刃物の刃部分から緑色の液体が滴り落ちる。ハルの背中にそれを突き刺そうとした瞬間、ハルが此方を振り返りながら魔法を唱えてきた。


「ファイアーボール!」


「なにッ!?」


 男は咄嗟に柄物を捨て、両手に魔力を込めてハルのファイアーボールを受け止めたが、打ち消すことができなかった。


 ──な、何なんですか!?このファイアーボールの威力は!?…くっ!!


 ファイアーボールを止めているが徐々に限界に達する。掌に熱を感じ始めた。


「くそぉぉぉぉ!!」


 指先が焼け出し、男の着ているローブに火が燃え移ると、一瞬で男は炎に包まれた。


「うぎゃぁぁぁぁす!!」


 全身に火が絡み付く、悲鳴と衣服と肉が焼ける音が教室内に響いた。


「やった……勝った……」


ピコン

レベルが上がりました。


 機械のような音声がハルに聞こえる。男の悲鳴と焼ける音が少しずつ小さくなり聞こえなくなった。代わりにいつもの鐘の音が聞こえる。


ゴーン ゴーン


~ハルが異世界召喚されてから1日目~


 ハルは図書館へと向かった。道中ステータスを確認する。


【名 前】 ハル・ミナミノ

【年 齢】 17

【レベル】  7

【HP】   83/83

【MP】  76/76

【SP】   100/100

【筋 力】 50

【耐久力】 68 

【魔 力】 64

【抵抗力】 61

【敏 捷】 64

【洞 察】 64

【知 力】 931

【幸 運】 15

【経験値】 200/800


・スキル 

『K繝励Λ繝ウ』『莠コ菴薙�莉慕オ�∩』『諠第弌縺ョ讎ょソオ』『閾ェ辟カ縺ョ鞫ら炊』『感性の言語化』『第一階級水属性魔法耐性(中)』『恐怖耐性(中)』『物理攻撃軽減(弱)』『激痛耐性(弱)』『毒耐性(弱)』


・魔法習得

  第一階級火属性魔法

   ファイアーボール

   ファイアーウォール


  第一階級水属性魔法

   ──

  第一階級風属性魔法

   ──


 これでハルが人を人生で3人殺したことになった。以前よりはショックを受けなかった。あの男はBクラスのみんなに酷いことをしたから死んで当然なんだと、少し横暴な考えが自分の罪の意識を和らげているのは事実だった。


 フレデリカと出会い第二階級火属性魔法の訓練をする。オデッサとは出会わずにルナと合流し孤児院に泊まった。


~ハルが異世界召喚されてから2日目~


<実技試験中>


「ファイアーボール」


 ハルの放った火の玉は以前よりも威力が大幅に上がっている。周りにいる受験生の貴族連中はあまりそのことを気に止めていない。イケメンのレイもそうだった。


 しかしこの時レイはハルのファイアーボールを見て眉根をひそめていたことにハルは気付いていなかった。


 試験官にまた同じ質問をされる。


「孤児であるか?」


 以前と同じ様にハルは答えた。


「はい。そうです」

 

 質問をした小太りで目蓋が重たそうな試験官は鼻をならして、持ち場へと戻った。


 ──この質問は一体何のためにされるんだろう……


 結果はBクラスに合格する。やはり一発のファイアーボールだけではどんなに威力が高かろうがBクラスどまりなのだろう。


 アレックスとマリアと出会う。


 お茶の誘いを断り、魔の森へと向かった。ハルはとある実験をしたいと考えていたのだ。


 風属性魔法と水属性魔法を唱えられるので、それぞれの第一階級魔法を習得してみようと考えたのだ。


 あの襲撃者が唱えていた魔法を掌から放った。


「ウィンドカッター」


 あの男より少し速度の早い風の刃が木を斬り倒す。


ピコン

第一階級風属性魔法

『ウィンドカッター』を習得しました。


 1つの新しい魔法を覚えたからといって戻ることはなかった。ハルは続けて唱える。


「ウォーター!」


 丸い水の玉が放出され木に激突する。幹を少し傷付けた程度の威力だった。


 ──これは只の水鉄砲?あまり使えないかな?


ピコン

第一階級水属性魔法

『ウォーター』を習得しました


 やはり、戻ることはなかった。


~ハルが異世界召喚されてから3日目~


 ラースと出会い、孤児院で仕事をする。この日はあまり訓練する時間がとれないのでマキノが愛読している絵本のコレクションを見せてもらった。


「これが私の好きな本だよぉ」


 マキノは小さな身体を目一杯広げて本棚を紹介する。


『勇者ランスロットの冒険』

『ララのお仕事』

『竜の王』


 今まで読んできた本が置いてあった。


 ここにある絵本は貴族や一般市民も良く読んでいるモノらしく、教養の1つだとハルは考えている。本棚にある作品の背表紙を眺めていると、


『隣のサナトス』


 という絵本が目にはいった。


 作者の名前はヴァンホーヴェン。


 ──どこかで聞いたことのある名前……ココアのなんか有名なやつ!それはヴァン○ーテンか!


 見当違いの名前を思い浮かべてしまったが、以前読んだ『勇者ランスロットの冒険』と『竜の王』と同じ作者であることに気付いた。


 なんでも、有名な小説家であり、晩年は絵本にも着手していた。つまり今はもう亡くなっていて、新作はもう出ていない。


「この人の作品わたしもすきぃ~」


 ──作者で絵本を選ぶとは…やはり恐ろしい子!


 『隣のサナトス』の内容はとても不思議なものだった。


◇ ◇ ◇ ◇


私は死だ。


奴隷であれ平民であれ貴族であれ、王であれ獣であれ、命あるものなら必ず訪れる別れ。


それは私との出会い。


しかし、人々は争い、死をもたらそうとする。私の仕事を奪うのだ。


なぜ命を大事にしない?


私は痺れをきらし争っている人達の前に姿を表した。するとたちまち皆が倒れて死んでしまう。


私は私自身が死であることを忘れていた。


だから寝ているときにそっと囁く。

寝てるときは現世と常世の狭間、それはつまり、生と死の間。


サナトスは少女に悪夢を、囚人に希望を、

正義に悪を、悪には正義を見せた。


するとどうでしょう?


その者の人生は変わってしまう。だが世界は変わらない。


サナトスの一言で人は変わってしまう。

サナトスはどこにでも現れる。

ほら?あなたの隣にも……


◇ ◇ ◇ ◇


 ハルはゆっくりと隣を確認した。


「わっ!!」


「うわぁっ!」


 マキノが驚かす。


「早くお風呂入りなさい!この子ったらほんまに!!」


 関西在住のおかんみたいなことを口にするハル。


~ハルが異世界召喚されてから4日目~


2時限目

第二階級火属性魔法演習


「ここだけの話、この授業で第二階級魔法を唱えられた生徒は問答無用でAクラスに編入できるらしいぜ」


 ラースが囁く。


「どうしてそんなに小声なんだよ?」


「だって見ろよ?Aクラスの女の子達!皆貴族のスーパー美人のお嬢様達だぜ?あのクラスにいるだけでも幸せじゃねぇか?」


 ゲスい顔になるラース。別に涎も出てないのに口元を拭っていた。


「ハル~~!」

「ハルく~ん」


 アレックスとマリアが手を振っている。


「アレックス!マリアも元気?」


「うん!元気!」


「なんで私には…」


「アレックスも元気?」


 前回マリアにしか元気かどうかを尋ねていなかったのでアレックスに怒られた。だから今度はちゃんと聞こうとハルは考えていたのだ。


「げ、元気よ!?」


 アレックスは自分が元気かどうか聞かれないものかと思っていたので返事に戸惑ってしまった。そしてハルには聞こえないような声で呟く。


「そんな…急に思ってもないこと聞かれたらそりゃぁ……」


 照れた仕草をしながら横目でハルを見るアレックス。


 その様子を見たラースとマリアはゲスい顔になる。


 ハルはアレックスがチラチラこちらを見ているのに気が付いた。


「どうしたのアレックス?」


「べ、別に!なんでもないわよ!?」


 動揺しすぎたことに更に動揺してしまうアレックス。


 ──あぁ…こんな見え見えなことしちゃって…私……


 その様子を微笑ましく見ているラースとマリア。そんなことは露知らずハルは能天気なことを言ってしまう。


「また僕のこと見てカンニングしてるのかと思ったよ!」


 ガックリと下を向くラースとマリアとアレックス。


 アレックスはフルフルと震えだした。その様子を見たハルは更に追い討ちをかける。


「どうしたの?トイレ?」


「ハルのバカ~!!」


「いよぉ~し!お前らぁ青春してるなぁ!?俺はこの授業の担当をするスタン・グレンネイドだ!ちなみにAクラスの担任もしてるぞ!宜しくな!」


3時限目

神学の授業


「さぁこれから皆さんには殺し合いをして頂きます」


 ──この台詞ももう何回聞いたことだろうか……


 静まりかえる教室。


 その静寂をハンスの机を叩く音と叫び声が破った。


「どういうことだ!」


「こういうことです」


 男はハルの前にいる男子生徒を指差したが、


「やめろ」


 ハルは立ち上がり教壇へと続く階段にでた。


 男は狙いをハルに定める。


「ウィンドカッター」


 ハルは拳に魔力を纏って向かってくる風の刃を弾いた。


 ──前回より魔法の速度が遅い?


 ハルがそう思ったその時、どこかで爆発音が轟いて、教室全体が揺れた。それに驚いた何人かの女子生徒が悲鳴を上げる。

 

 ──そういえばこの音はどこから来てるのか?あ!?ひょっとしてAクラスじゃないか?そういえば他のクラスはどうなっているんだろうか?

 

 ハルが敵を前に別のことに気をとられていると、男は口を開く。


「ほう、これを防ぎますか?…じゃあこれならどうです?」


 男は3つのウインドカッターをハルに向けて放った。


 ──遅い……こんなに遅かったっけ?

 

 迫る3つのウィンドカッターに向かってハルは魔法を唱えた。


「ファイアーボール」


 ハルの唱えた大きな火球が3つの鎌鼬を焼き尽くす。そしてそのファイアーボールは勢いそのままに男の元へと向かっていった。


 ──なんですか!?あのファイアーボールの威力は!?


「くっ!」


 男はなんとか眼前に迫ったファイアーボールを避けるが、その先に待っていたのはハルの拳だった。


 ハルは男がわざと此方に避けるようファイアーボールを撃っていたのだった。そして魔力を込めた脚で瞬時に移動し、男の顔面目掛けて拳を放った。


 男の顔面にハルの拳がめり込んだ。振り抜かれた拳によって男は後方にある黒板に激突する。


 ハルは思った。


 ──すっげぇ…威力……


 するとその激突音とほぼ同時に爆発音が聞こえてきた。


 ハルは上を向きながら、その音が何処で鳴っているのか考える。


 ──やっぱAクラスの教室から音が鳴っている気がする。


 レベルが上がったせいか、殺しあいをしているにも拘わらずハルは余裕だった。


「はぁはぁ…」


 黒板を破壊しその奥の壁にめり込んだ男は顔面を押さえ、肩で息をしていた。


 男はハルから逃げるようにしてその場から駆け出す。目指すは教室の出口だ。ハルはAクラスのことが気になり、男をその場から逃がしてしまった。


 出口を目指して必死に階段を駆け昇る男。走るフォームが汚ならしい。


 教壇に登ったハルは逃げ去っていく男の背中を狙い、再び脚に魔力を込める。


「逃がさないよ?」


 そして一歩踏み出すと男との距離を一瞬で移動した。踏み込んだ勢いで教壇が音を立ててバラバラになる。


 自分でも今まで体験したことのないスピードで空中を移動するハルは狼狽えた。どんどん男との距離が狭まると、どうやって着地を決めればよいものか思案した。


 ──うわっうわっ!止まんない!!


 ハルは両腕を前に顔を守るようにして覆った。そして逃げ行く男の背中に激突する。


 2人は階段の中腹で揉み合うと。魔力の込められたハルの腕の力に男はなす術がなかった。あっという間に、マウントポジションをハルにとられる。


 男は振り上げられたハルの拳を見ると、先程その拳を顔面にくらった映像と痛みが過った。男は反射的に顔をガードすると、ハルは男の胸部に拳を叩きつけた。


「グヴォッ!」


 メキメキと肋骨の砕ける音が聞こえる。


「や、やめ……」


 男は命乞いをすると、ハルは急に怒りが混み上がる。この世界線ではないが、殺戮を演出し、逃げ惑う生徒やラースを殺した記憶がよみがえった。


「何をいまさら……」


 ハルは胸に叩きつけた。拳を開き、唱えた。


「ファイアーボール」


「ぐぎゃぁぁぁぁす」


 ハルは立ち上がり、燃え行く男を見ていた。ハルはこれで今までに4人殺したことになる。しかし今までの3回とは少し訳が違った。


 今までの3回は殺した後にすぐいつもの場所に戻っていたが今回は戻らない。戻ることで現実逃避することも出来たが、今はそうもいかない。


 Bクラスの皆がハルを恐怖の眼差しで見つめてくる。あのラースでさえも。


 ハルはそのまま階段を上り教室を出ると激しい音が聞こえたAクラスへと向かった。


 ハンスはハルの背中を羨望の眼差しで見ている。

 ──俺は…何を考えている?あんな庶民のことなど……


SP、筋力、魔力、敏捷、洞察が1上がった


【名 前】 ハル・ミナミノ

【年 齢】 17

【レベル】  7

【HP】   83/83

【MP】  35/76

【SP】   89/101

【筋 力】 51

【耐久力】 68 

【魔 力】 65

【抵抗力】 61

【敏 捷】 65

【洞 察】 65

【知 力】 931

【幸 運】 15

【経験値】 600/800


・スキル 

『K繝励Λ繝ウ』『莠コ菴薙�莉慕オ�∩』『諠第弌縺ョ讎ょソオ』『閾ェ辟カ縺ョ鞫ら炊』『感性の言語化』『第一階級水属性魔法耐性(中)』『恐怖耐性(中)』『物理攻撃軽減(弱)』『激痛耐性(弱)』『毒耐性(弱)』


・魔法習得

  第一階級火属性魔法

   ファイアーボール

   ファイアーウォール


  第一階級水属性魔法

   ウォーター


  第一階級風属性魔法

   ウィンドカッター

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