第15話
~ハルが異世界召喚されてから4日目~
「どうして!どうして!俺様がAクラスじゃぬぁ~いんだ!!!あの平民さえいなければ!くそ!!」
ハンスは激怒していた。体育会系のがたいをして、金髪で短髪を逆立たせているため、より激怒してる感が出ている。
「きっと不正をしていたんでしょうねぇ」
ハンスの腰巾着のイェーツが相槌をうったが、ハンスの耳には全く聞こえていなかった。
──くそぉ…試験日では父上から頂いた魔剤を飲んでいたのに…あの日から父上は俺のことをまともに見もしない!クソクソクソ!!
ハンスはなるべくAクラスと合同で行われる授業を取っていたがしかし、必修の神学は80人ものBクラスと一緒に受けなければならない。
──何故俺がこいつらと受けなければならんのだ?
ハンスはイェーツに言って一番後ろの席を取らせていた。この席だと自分が一番高い場所に位置しており、平民達を見下ろせるのがお気に入りのようだ。
ハンスは席につくと、続々と卑しい者達が教室に入ってくる。
──全員俺様の魔法で塵にすれば、俺様もAクラスに上がれるのではないか?いやしかし俺様がやったとバレれば末代までの恥だ……
ハンスはできもしないことに想いを馳せた。
講師と思しき者が教室に入ってきた。ゆっくりと階段を下り、教卓の前に立つ。黒いローブを着た若い男だ。
──フン、所詮は我々貴族から金を貰わないとやっていけない司祭どもの授業など……
ハンスが見下していると、教卓の前でその男が口を開く。
「さぁこれから皆さんには殺し合いをして頂きます」
教室が静まり返った。
「はぁ……」
ハンスは溜め息をついた。
──何の冗談なのか知らんがこんな奴らの為に金を払っているのか……
「くだらん!どういうことだ!」
机を叩きながらハンスは怒鳴った。教室内にその声と音が響く。
「こういうことです」
男は人差し指を教室の前の方に座ってる男子生徒に向けた。
「え?ぼく?」
指をさされた男子生徒は困惑気味で答えていると、男は唱えた。
「ウィンドカッター」
教師と思しき男は第一階級風属性魔法を唱え始めたのだ。指先から白い刃の様な風が男子生徒に向かうと、男子生徒の首が飛んだ。
すると、どこかで爆発音が轟く。教室全体が揺れる中、首から上が失くなり、そこから血を噴き出している光景を目の当たりにした女子生徒が叫び散らした。
「キャァァァァァァァァ!!!」
ハルは前の席に座っている男子生徒の首が失くなり、その傷口から噴き出す血を諸に浴びていた。目の前で起こっていることを認識できない。咄嗟に頬についた血を拭い、手にべっとりと付着した血を見てようやく今の惨状を理解することができた。
ハルは隣にいるラースの顔を見る、目があった。ラースは恐怖を溜め込んだ顔をしている。
「きゃぁぁぁぁぁ!!!」
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
始めに叫んだ女子生徒を皮切りに続々と叫び声をあげる生徒達。教室内はパニックに陥った。その時、またどこかで爆発音がした。
その爆発音を聞いてか、先程男子生徒を殺害した男は教卓の前で再び口を開く。
「あ~派手にやってるところがあるみたいですねぇ。私も負けていられません!」
男が言い終わるのと同時に教室の後方から魔法を唱える声が聞こえてきた。
「ファイアーボール!」
悪態をついていたハンスが魔法を放ったのだ。教壇の前にいる男に向かって、小さな火球が直進する。男はそのファイアーボールを掌で受けた。
パリンと何かが割れる音が聞こえたかと思うと、ハンスの唱えたファイアーボールは消失し、それを受けた男の掌から少しだけ煙が立っていた。男は煙の出る掌を見つめて言った。
「これしきのファイアーボールしか撃てないのですか?やはりBクラスですね」
ハンスの顔が青ざめる。自分の全力のファイアーボールが全く通用しなかったからだ。
「お、お前たちさっさとあいつに攻撃しろ!」
何人かの生徒、主に貴族出身の者達が一斉に自分のもてる攻撃魔法を男に浴びせていく。
「ファイアーボール」
「ウィンドカッター」
「シューティングアロー」
「ウォーター」
男は方々から向かってくる攻撃魔法に備えて、両手に魔力を纏い始める。最初に男に到達したのは第一階級光属性魔法のシューティングアローだ。
一筋の光が矢のようにして男の額に向かっていく。男は冷静に軌道を見極め、首を傾げるようにして光の矢を躱す。
次に第一階級風属性魔法のウィンドカッターと先程ハンスが唱えたファイアーボールが男に向かっていった。2つ並んで向かってくる風の刃と火球を、予め魔力を込めた両手をそれぞれの魔法にぶつけるようにして打ち消す。
そして最後に水の弾が飛んできた。男はそれを諸に受けるがピンピンとしていた。男はコホンと咳き込み、ウォーターを唱えた生徒に向けてウィンドカッターを唱える。その生徒は先程の男子生徒同様、首を切り裂かれ、絶命した。
男は濡れた両手を振りながら言った。
「どれもゴミのような攻撃でしたが、特にウォーターを唱えた者は全くセンスがありません。ただ私を水浸しにして、不快感を与えたのは称賛致します。褒美に死を与えてみました」
教室内は悲鳴と嗚咽で満たされた。男は続けてその場に合わない冷静な声で言った。
「今攻撃してきたのは貴族の方たちですか?はぁ…いいですか?皆さんにとってこれはチャンスなんですよ?今から生徒同士で殺し合いをして頂きます。それで殺すことに成功した生徒はレベルが上がるでしょう?そうすれば直ぐにでもAクラスに上がれますよ?こんなBクラスの負け犬人生は嫌でしょぉ?」
男はそう説明しながら裏では違うことを考えていた。
──まぁそのレベルの上がった者を私が狩りとって私のレベルを上げるのが目的なんですけどね……
ハンスは男の言っていることを理解できたが身体が動かない。
「時間も勿体ないですからもう少し私が減らしてみますか」
男は左手の人差し指を今度はハルの横にいるラースに向けて唱えた。
「やめっ」
「ウィンドカッター」
ラースの首が吹っ飛んだ。
ハンスは目の前で起きていることをやっと理解できた。
──そうだ!自分が殺したとしてもこの男のせいにすれば良いのではないか?これは正しいことだ。俺がBクラスにいることが間違っているのだから!
「ファイアーボール」
ハンスは気付いたら自分の前にいる男女の生徒を攻撃していた。
「キャァァァァ!!」
「ギャァァァァ!!」
二人の生徒が燃える。その炎に照らされながらハンスは言った。
「フフフ、感謝するぞ!平民ども!さっさと俺様の糧になれ!!」
ハンスの一言で貴族出身の何人かの生徒も攻撃魔法を放つ。
「ウ、ウィンドカッター!」
「……ファイアーボール!」
何人もの生徒が死んでいく。
「さぁもっともっと殺ってください」
男は両手を広げ指揮者のようにして教室内の生徒を煽る。
「う、うわぁぁぁ!!」
教室から出ようとする男子生徒。その背中を追うようにして鋭利を伴った風が襲う。
「うがぁぁぁぁ!!」
男子生徒は細切れとなり、自分の体内から吹き出した血溜まりへと落ちた。
「言い忘れておりましたがここから逃げようした者は私が殺しますよ?」
悲鳴と肉が切れる音、血飛沫が上がる音、誰かが倒れる音、逃げ惑う音がこだまする。
ハルはまだ席から動けないでいた。自分を中心にして悲劇が渦巻いている錯覚に陥る。
ハルはこれから苦楽を共にする筈の仲間達が自分を殺しに来る悲哀、それと友達が死ぬのをただ見ていることしかできなかった不甲斐なさに支配されていた。そのせいで魔力が上手く練れない。こんな状況で死を待つのはごめんだ。
──一体どうすれば……
男は教室内を見渡す。
──人数が粗方減りましたね……
男は着ているローブの中に手をしのばし、懐から砂時計を取り出した。
──もう少しですか……
男は指先を今度はハルに向ける。
──待て待て!防御の方法!知らねぇよ!
男と目が合った。息を飲むハル。
「ウィンドカッター」
無情にも男は魔法を唱えた。ハルの首もと目掛けて風属性魔法が飛んでくる。
「やばい!やばい!」
ハルは首を守るようにして手で男の唱えたウィンドカッターを掴もうとした。
「うわぁぁぁぁぁ」
自分の首が飛ぶことを覚悟したが、
パリン
ハルに放たれた魔法は掻き消された。ハルは手に魔力をMPを使いきる寸前まで込めていたのだ。
死を覚悟していたが、死なずにすんだ。男がハルに向かって何か言っている。
「ほう、これを防ぎますか?…じゃあこれならどうです?」
男は3つのウィンドカッターをハルに向けて放つ。
ゴーン ゴーン
鐘の音が聞こえた。
「あ、戻った……」
──敵に褒められたから?いや違う、首が飛ぶ恐怖から一時的にも解放されたからだ。
MP、SP、魔力、抵抗力が2上がった
【名 前】 ハル・ミナミノ
【年 齢】 17
【レベル】 4
【HP】 61/61
【MP】 50/50
【SP】 84/84
【筋 力】 27
【耐久力】 46
【魔 力】 40
【抵抗力】 35
【敏 捷】 42
【洞 察】 39
【知 力】 931
【幸 運】 15
【経験値】 270/500
・スキル
『K繝励Λ繝ウ』『莠コ菴薙�莉慕オ�∩』『諠第弌縺ョ讎ょソオ』『閾ェ辟カ縺ョ鞫ら炊』『感性の言語化』『第一階級水属性魔法耐性(中)』『恐怖耐性(中)』『物理攻撃軽減(弱)』『激痛耐性(弱)』
・魔法習得
第一階級火属性魔法
ファイアーボール
ファイアーウォール
第一階級水属性魔法
──
第一階級風属性魔法
──
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