第97話 出発

「今から何処にどのチームと車両を配置するか指示する! その前にこれを配っておく。各チームの代表は無線機を取りに来てくれ」


 フェイブルとまた入れ替わる様にデビスが無線機を用意する。

 護衛依頼を受けた雪豹チームのリーダーたちが無線機を受け取るとそれぞれの車両に取り付け不備がないか調べる。


「周波数は既に合わせているから下手に弄らない様にしてくれ。暴走ロボット等に此方の動きを察知されない為に使うのは最小限に留める。十五分ごとに電源を入れ、各車両に異常がないか確かめて回る。……車両トラブルなど緊急時には遠慮なく使ってくれ、下手な気づかいや自分達で解決しようとするな! それが味方を死に追いやると思え!」


 デビスは無線機の設置が終わったのを確認すると注意事項を伝える。


「もしも戦闘状態になったら直に無線機の電源を入れてくれ。基本は各車両が勝手に遊撃してくれて構わないが、相手の数が多かったり、賞金首の雪賊などが現れたら細かい指示を出す場合もある。その時は素直に俺の命令を聞いてくれ」

「了解」


 デビスが戦闘時の注意事項を通達すると、雪豹チームたちが声を揃えて了解と返事する。


「よし、次に各車両の位置を確認しておこう。先頭は……」


 次にデビスが各チームの車両の配置を指示する。

 ミオン達が搭乗するドラゴンエッグは最後尾に配置された。


 理由はドラゴンエッグのドライブ機構がホバーな為、雪を巻き上げてしまう。

 先頭に配置すると後続車が巻き上げられた雪で視界を塞がれてしまう可能性があることと、万が一襲撃などで壊滅的状況に陥った場合、ミオンのドラゴンエッグに生存者……最優先としてフェイブルを乗せて逃走する為でもある。


「最優先護衛対象はフェイブル殿が搭乗する車両だ。いざと言う時には即座に援護しろ。万が一撤退する場合、生存者はミオンのドラゴンエッグに搭乗し、生き残った車両は殿としてドラゴンエッグを護れ」

「了解しました」


 ミオンのドラゴンエッグが逃走用の車両に選ばれた理由は三つ。

 一つ目は快適性を無視して詰め込めば最大二十人前後が乗り込むことができる。

 二つ目は他の車両の装甲がチタン合金に対してドラゴンエッグはハイチョバム式とチタン合金より数段上の防御力を持っている。

 三つめはエンジンの馬力とホバー移動で最大350km近くの速度を出せ、並大抵の車両では追いつけないということだった。最大速度を出せばトレーラーハウスの中は酷いことになるが……


「指示は以上だ。何か質問があれば聞くが……ないようだな。何か気になったら無線の定期交信の時にでも聞いてくれ」


 デビスは質問がないか確認した後、腕時計を確認する。


「俺の時計でもうすぐ8:00になる。そこで最初の交信を行い、出発する。それと、何らかの異常事態には先頭を進む我々が停車し、後続に停止命令を出す場合もある。その時も落ち着いて無線機の電源を入れ、指示を待ってほしい」


 そう言ってデビスは周りを見渡して確認を取る。

 それが終わると彼は大きく頷き、静かに息を吐きながら口を開く。


「よし……各員は車両に搭乗してくれ!」

「了解!」


 各自が車両に乗り込んでいく。

 ミオン達もドラゴンエッグに乗り込むと通信機の電源を入れて最初の通信を待つ。


『各員時間だ。聞こえているか? 異常はないか?』


 時刻が8:00になると、宣言通り通信機越しにデビスの声が聞こえ、各チームが異常がないことを伝える。


『最後にミオン、異常はないか?』

『異常ありません!』

『……よし、全ての状態を確認した。依頼を開始する。都市の外に出たら先ほど述べた車列位置に移動してくれ。各員、出発するぞ』


 デビスの号令と同時に車両が動き始め、大通りを駆けていく。

 こうして今度はミオンが行商隊を護る側の護衛依頼が始まった。

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