第70話 リザルト


「まさかこんな結末になるとはな」


 護衛部隊がフロストシティに帰還してきて、帰還報告を受けたゴールデン・バックのリーダー、ハイレディンが唸っていた。


「何かトラブルでも?」


 傍に控えていたティーチがハイレディンに問いかける。


「いや……トラブルじゃないんだが……ヴァルプルギス・ナイト・マーケットの農業コロニーと都市の定期航路の護衛と輸送契約をとって来たって」

「はい?」


 ティーチは思わず変な声を漏らし、ハイレディンが持ってるPDAの報告書を覗き込んだ。

 そこには確かにヴァルプルギス・ナイト・マーケットの農業コロニーの護衛と荷物の定期輸送の契約書のPDAが表示されていた。


「仕事は受けるのですか?」

「うちもメンバーが増えてきて雪堀や遺跡潜り等雪豹活動だけでは賄えなくなってきたからな。今は何とかなっているが、雪豹業ってのは安定させることはほぼ不可能だ。怪我したり、ビーグルが破壊されたら一気に落ちぶれることだってある。安定した収入業務は必須だよ」


 ハイレディンが言うようにこれまで有名になった雪豹たちの中には主要メンバーの怪我や死亡、チームが所有するビーグルの故障や大破が原因で落ちぶれたり、解散したチームも多数あった。


 飛ぶ鳥を落とす勢いなんて世間では言われているが、ほんの少し歯車がずれただけで瓦解することだってある。それが雪豹家業なのだ。


「こまごまとした決まり事とか業務内容決めるのに、向こうの会頭と一度は会談するべきだな」


 ハイレディンは万が一の為にヴァルプルギス・ナイト・マーケットとの業務提携を受け入れるつもりであった。


「そういえば護衛メンバーから聞いたんですが、ターカーさん、飲み比べ負けたそうです」

「はあっ? あのブラックホールがっ!? 誰に?」


 ティーチがぼそっとターカーが飲み比べに負けたと伝えると、ハイレディンは信じられないという顔で誰に負けたか聞いてくる。


「ヴァルプルギス・ナイト・マーケットの会頭さんだと言ってました。会頭さんは『自分が挑戦する前に飲んでいたし、こちらに華を持たせるために勝たせてもらった』と言ってましたが」

「それでもなあ……」


 ハイレディンにとっては寝耳に水に近い出来事なのか深々と椅子に座って煙草に火をつける。


「そういえばミオンは?」

「今はヴァルプルギス・ナイト・マーケットの会頭の所に出向いているようです。今回遺跡から持ち出した遺物の最終買い取り額が決まって、その受け取りだとか」


 ハイレディンがミオンの様子を聞くとティーチはミオンが今ヴァルプルギス・ナイト・マーケットに出向いてると伝える。


「……その話漏れてないよな?」

「念のため護衛メンバーには口を閉ざすように言ってますし、ターカー、リディ、イザベラを付き添いという形でミオンの護衛に向かわせています」

「ちょっかいかけてくるやつがいたらうちの名前を出せ。ミオンとの関係は繋げておくんだ。あいつはゴールデン・バックにとっての幸運の星ラッキースターだ」


 雪豹の中にはハイエナと侮蔑名称で呼ばれる他人の儲けを狙う輩がいる。

 雪堀や遺跡潜りなどあるかないかわからない儲けを狙うより、確実に儲けた雪豹を狙った方が実入りがいいと考える輩達がいる。


 今回ミオンが潜ったGランク遺跡は遺物や警備ロボットを根こそぎ漁ったためにHランクに下がるのが確定している。

 ちょっと調べればランクが下がる前に誰が遺跡に潜ったかわかる。

 基本ソロで後ろ盾が客観的に見えないミオンはハイエナ達から見れば極上の獲物に見えるだろう。


 ミオンはヤポンスキーの隠し子かもしれないと思っているハイレディンは、遠巻きに恩を売る為にも護衛をつけさせていた。

 無論、今回のような幸運がまた舞い込んでくることを願ってという打算もあった。

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