第30話 VSサスカッチ
「このや———」
突如現れた片腕のサスカッチ。
すぐに臨戦態勢に入ったのはターカーだけで、軽機関銃を構え、引き金を引こうとする。
「ガアアアァァァッ!!」
「ガフッ!?」
ターカーが引き金を引くよりも早く、片腕のサスカッチが手に持った鹿型のミュータントの死体をターカーに投げつける。
直撃を受けたターカーは吹き飛ばされ、軽機関銃は明後日の方向に飛んでいく。
「グルルルッ……」
片腕のサスカッチは唸り声をあげながら、飛んでいった軽機関銃を踏みつぶし、反撃の手段を封じ込めようとする。
ターカーは鹿型のミュータントの死体の下敷きになっており、起き上がる様子がない、
片腕のサスカッチがターカーに止めを刺すために向かおうとすると、一発の銃声がする。
リディとイザベラ、そして片腕のサスカッチが銃声がした方向を見ると、ミオンがサスカッチの死体の頭部にショットガンの弾を撃ち込んでいた。
「こっ、こいつを殺したのは僕だっ! 仇はこっちだぞ!!」
ミオンは声を震わせながら片腕のサスカッチの気を引こうとする。
「ガアアアアアアッ!!」
ダメ出しにイエティの死体を蹴ったら、それが逆鱗に触れる行為だったのか、片腕のサスカッチは吠え声をあげて、怒りの感情を表すように残った片腕で床を何度も叩く。
「二人ともっ! ターカーさんを頼む! こっちだ! ミュータント!!」
「ホギャアアアアアア!!!」
ミオンはリディ達にそう伝えると通路に向かって走る。
片腕のサスカッチは逃がすかと叫ぶように雄たけびを上げて、ミオンを追いかけていく。
『マスター! 無謀すぎますっ!!』
「ごめんよっ! ナビィと僕ならなんとかなると思って!!」
必死の形相で逃げながら、ミオンはナビィの抗議に謝罪していた。
『迎撃ポイントを計算します』
「なるべく早く! 追いつかれるか、息切れする前だと嬉しいなっ!!」
「ガアアアアア!!」
ナビィは思考を切り替えて、サスカッチを迎撃するポイントと作戦を計算する。
ミオンはVRゴーグルに表示される細い通路のルートを選んで逃げる。
サスカッチは自分の体形では狭苦しい通路を強引に通り抜けてミオンを追いかける。
『マスター、あのポイントを撃ってください』
「無茶言わないでっ!!」
唐突に通路の天井部分にポイントをつけられて、そこを撃つようにナビィから指示が入る。
射撃に慣れてないミオンは文句を言いながらも、指定されたポイントを撃つ。
「ショットガンにして正解だったねっ!」
もしミオンが持っていたのが通常のハンドガンだったら外れていただろう。
だがショットガンから発射された無数のシェルが指定されたポイントに命中する。
『マスター、シャッターが降り切る前に走り抜けてください!』
ナビィが指定した場所には非常用の防火シャッターの開閉装置か何かがあったらしく、銃で撃たれたことで作動し、防火シャッターが降り始める。
「間に合え—————!!」
ミオンは背嚢を投げ捨てて身軽になるとスライディングして、シャッターを通り抜ける。
背後から追いかけていたサスカッチは降り切った防火シャッターに激突して、フレームが歪んだのが見えた。
「ガアアアア!!」
怒り狂っているサスカッチは、迂回するという選択肢すら頭にないのか、何度もシャッターを殴って破壊しようとする。
防火シャッターは殴られるたびにフレームが歪み、扉部分の壁に亀裂が広がっていく。
『マスター、今のうちにリロードを』
「わかった!」
ミオンはポケットから弾薬を取り出すとローディングゲートにシェルに一発ずつ押し込んでいく。
リロード中もサスカッチが防火シャッターを殴る音は響いており、同時にミシミシと亀裂音もミオンの耳に聞こえてくる。
「うあっ!?」
『落ち着いてください! 落としたのは無視して新しいのを』
焦ってリロードに失敗して弾を一発落としてしまう。ナビィのフォローを受けながら装填を終えると同時に、防火シャッターが吹き飛ばされ、サスカッチが顔を覗かせる。
『今です! 引き金を引いたまま、何度もポンプをスライドさせてください!!』
「うわあああああああ!!」
ミオンはナビィに言われるまま、引き金を引いたまま、ポンプを何度もスライドさせる。
ラピットショットと呼ばれるポンプ式のショットガンで行う早撃ちで、通路から顔を出したサスカッチの顔面に全弾命中する。
「はあっ……はあっ……肩が……」
連射による反動に耐えられなかったのかミオンはショットガンを落として、苦痛に顔をゆがめる。
「サスカッチは……?」
『生命反応……反応なし、目標は死亡したと認識します』
サスカッチの方を見れば、顔のほとんどが抉られているようにボロボロで血とサーマルエナジーが漏れて床に広がっている。
ナビィの死亡確認の声を聴くとミオンは緊張の糸が途切れたのか、気を失った。
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