第29話 悪夢再び


『おはようございます、マスター。ブリザードは止み、外は晴天となっています』


 ブリザードによって遺跡に足止めされたミオン達は、植物園跡の警備室で一夜を過ごす。

 翌朝にはブリザードは止んでおり、ナビィがミオンを起こしながら外の天気を知らせてくる。


「おはよう、ナビィ。特に問題はない?」

『施設内のエネルギーは3%を下回りました。ブリザードの影響でいくつかのエリアのガラス窓が破損、内部に雪が積もっています』


 警備室の椅子を並べて即席のベッドで眠っていたミオンは軽く伸びをすると、何か異常がなかったかナビィに聞く。

 ナビィはミオン達が休んでいる間の出来事を報告していく。


「彼女たちの死体があるエリアは?」

『そちらにもブリザードの影響が出ています』


 ミオンはキャサリンたちの遺体があるエリアの状況を聞くと、ナビィはそこも影響を受けていると報告する。


「ミオン、起きているか? 朝食を取ったら回収に向かうぞ」


 警備員仮眠室の方で仮眠をとっていたターカー達が朝食の準備ができたと声をかけてくる。


 ミオンはパッサパサのスティックパンをインスタントコーヒーでふやかして食事をとりながらリディ達の様子を見る。

 まだ三人の死から立ち直れていないのか食が細く、ゆっくりというより遅すぎる動作で食事をしていた。


「リディ、イザベラ、出れるか?」

「……はい」

「……」


 ターカーが声をかけると、リディは深呼吸して返事をするが、イザベラは未だ決心がついていないようなあいまいな態度をとる。


「本来なら無理をするなと言いたいが、ここは外だ。無理でも足を動かせ! 生きることにしがみ付け! 行くぞ!!」

「ははっ、はいっ!!」


 ターカーは大きく息を吸うと叱責するように大きな声でイザベラに声をかける。

 イザベラは雷に打たれたようにビクッと背筋を伸ばして、叫び返すように返事をしていた。


 キャサリンたち三人とサスカッチの死体があるエリアへと向かう。

 現場の血痕は酸化して黒く凝結しており、三人の遺体の肌は土色に染まっていた。


「キャサリン……ニノ……ニナ……ごめんねぇ……」


 リディは三人の遺体を見ると泣きながら謝罪する。

 イザベラは三人の死体が直視できないのか、顔を背けていた。


「あたし達で遺品を回収するから、ミオンはサーマルエナジーを回収してくれ」

「わかりました」


 ターカー達が三人の遺体からドッグタグや使える装備などを回収していく。

 ミオンは成体のサスカッチに針を刺してエナジーを回収する。


『警告ッ! 熱源反応休息接近! 距離……コンタクトエリア!!』

「敵しゅ———」


 ナビィの警告を聞いたミオンが敵襲と叫ぶ前に、その存在は植物園のガラスの天窓を破壊して降り立った。


「サスカッチっ!? まさか番かっ!!」


 いち早く反応したのはターカーだった。

 ミオン達の前に現れたのは左腕のないイエティの成体。右腕には鹿のミュータントの死体が握られていることから、おそらく外で狩ってきて植物園に戻ってきたのだろう。


「ガオオオオオンッ!!」


 破壊された天窓から次々と落ちてくるガラスの破片が外の太陽光を反射してキラキラと光る中、怒りの形相ともとれる顔つきのサスカッチが吠えた。

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