人の心と少年少女

菅原 龍飛

第1話

 私の名前は栗鼠心葉くりね ここは。普通の高校生一年生。身長一五〇センチ。苗字のせいでみんなからリスって呼ばれてる。

 そしてこれから私の話をしよう。

 私が自分の能力に気づいたのはつい昨日のことだ。昨日はそう、なんとも暑い、なんていうんだろうこういうの……まあとにかく、よく晴れた春の日だった。

 朝のSHRショートホームルームが終わって一時間目が始まるまでの少しの時間。みんなが散らばって話し始めるちょっとした時間に事件は起きた。いや、その時すでに起こっていた。

 とにかく暑いのだ。春とは思えないほどの暑さ。春の陽気とか言ってられないくらいの暑さ。

 それもそのはず。窓がどこも開いていなかった。私の席は中央も中央。教室の窓からも廊下の窓からも遠い。わざわざ立ち上がって開けに行くのは骨が折れる作業だった。誰かに頼もうとも思ったけれど、そのとき友達のアキたちと話が盛り上がっていたからなんとも頼みにくかった。

 だれか開けてくれる親切な人はいないかな、なんて思っていたそのときだ。教室の右前の席。そこにポツリと座ってた男子が目を凝らしてこちらを見ていたのだ。

 そういえば今考えると、なんで目を凝らしていたんだろ。まあいいや。

 その男子の名前は伊田池薫いたち かおる。私の家のお向かいさん。あと多分だけど私より十五センチ定規一本分くらい背が高い。

 話がそれちゃった。えっと、どこまで話したっけ。ああ、そうだ。それでその伊田池くんと目があった。開けてくれないかな〜って見ていたら、なんということだろう。彼は立ち上がって教室の窓を開けてくれたのだ。その上廊下の窓まで!

 ふっふっふ、ここまで聞いたあなたならもうわかることだろう。そう、私がもつその能力。それは、“人を操ることができる能力”!それか、“人の心を操ることのできる能力”!……どっちでもいいや!

 そして、それを確信したのはその後の出来事だった。一時間目が終わり、二時間目が始まろうかというちょっと前。まだ黒板には一時間目の内容がびっしりと書かれていた。私はその黒板を眺めて、週番の人早く消さないのかなーって思っていた。

 試しに週番の方を見て目をつぶって念じてみたけれど何も起こらなかった。

 するとどうだろう。また伊田池くんが何かに恐れるようにこちらを見ているではないか。仕方なく念じてみると、伊田池くんは立ち上がって黒板を消し始めたのだ。もちろん伊田池くんが全部綺麗にしたんじゃなくて、それに気づいた週番の人が途中で替わっていたけど。

 とにかく、ここで私は確信した。私は人を操れるのだと。……まあどうやら伊田池くんだけみたいだけど。

 そして、ここから人を操ることのできる私の物語が始まるのだ!

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