555.【後日談5】肉球魔王様に挑め その4


・ある挑戦者チーム視点



挑戦者達のうち多くは、即席のチームを結成した。


まずは肉球魔王様の用意した、3種類の錬金魔獣の特性を調べなければならない。

そのためには、まずは様子見をする必要がある。


だが、それを理解していない者も居た。


人間の高さほどのマグロ頭の機械にタイヤが4つ付いた、マグロ戦車チャリオットへ、無策で突撃しているネコ科魔獣。

大型トラックの大きさを持つ、猫トラだ。


大きさでは猫トラが勝っているが、猫トラは遠距離攻撃を持っていない。

猫トラの顔に目がけて、無情にもマグロ戦車の水鉄砲が噴出される。



「に゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ーー!?(ぎゃーっ、冷たーーい!?)」



顔を濡らされて、ゴロリンゴロリン転がっている猫トラへ、更なる水鉄砲の追い打ちが2射。

猫トラの頭に体力0/3とAR映像が表示される。

猫トラは【転移】魔道具によって、場外へと転送された。



(水鉄砲の速度はおよそ馬車が軽めに走るくらいの速度。

噴出間隔は不明。噴出可能量も不明か)



挑戦者達は互いの顔を見る。

あの錬金魔獣を狩るには情報がもう少し欲しいところ。

次は誰が様子見を行うか。



「俺が行こう。【シールド】と【バインド】が使える」



3種類の錬金魔獣は、500mごとに1体ほどの割合で、ポツポツと点在しているようだ。

こちらから仕掛けなければ、襲ってこない。


男を先頭に、チームがじわじわと、マグロ戦車の1体へと近づく。

距離にして、およそ20mまで迫った。


男が、【バインド】を発動する。

地面からツタが生えてきて、マグロ戦車を絡め取る。


マグロ戦車はジタバタし、男に目がけて水鉄砲を撃つが、男は【シールド】を発動、魔法の盾を用いて水鉄砲をはじく。



「へへっ! 引きつけ役ありがとうさん!

あとは任せな!」


「あっ! 抜け駆けとは卑怯な!」



マグロ戦車へ、別の男が向かい、マグロ頭に剣を振り下ろす。


カン!

ランプの表示が1つ減り、2つとなった。



「へへっ、楽勝……って、ぶぶっぶぶぶうう!」



【シールド】を使っていた男の盾の形が変形し、水鉄砲を器用に反射し、抜け駆けした男に当てた。

抜け駆け男の頭に体力2/3とAR映像が表示される。



「くそ! 何しやがる!」


「それは俺のセリフだ! 抜け駆けしやがっ、……何!?」


『妨害行為を検知。合体モードを起動』



マグロ戦車の目がピカピカ光り、妨害行為云々と機械音声で喋る。


すると、マグロ戦車の体の下からゴォオオオと蒸気が噴出され、ツタの拘束を引き裂き、マグロ戦車が空へと飛んだ。



「な、何が始まるってんだ……」


「見ろ! 他の2種類の錬金魔獣も飛んできた!」



マグロ戦車の体が4つに分裂し、カマス型機械に足と手と角が付いた、カマスデーモンの手足に合体した。


そして、サケ機械に羽が付いた、サケ大助(おおすけ)が、巨大な翼に変形し、カマス鬼の背中に合体する。


その意味不明な合体錬金魔獣が地上へと下りてきた。



『合体! カマスデーモンULウルトラSSSトリプルエス!』



シャキーン! という効果音とともに、合体錬金魔獣が両手両腕を上に上げてガッツポーズをとった。



「……」


「……」


「……」



何で合体したんだろう? と男達は不思議そうにしていた。



『肉球魔王様の眼前で、みにくい足の引っ張り合いをする愚か者共よ!

このアルティメット・カマスデーモン・MAXが成敗してくれるわ!』


「いや、あんた、さっきカマス鬼ULSSSって言ってたよな!?

自分の名前をコロコロ変えるのはやめろよ!?」


「というか俺ら全員ターゲットにされてね!?」


「理不尽だー!」


『ゴチャゴチャうるさい馬鹿どもめ! くらえ正義の一閃!』



合体錬金魔獣が、剣のような物を腰から取り出す。

剣の先から水鉄砲が噴出されている。


合体錬金魔獣がそれを一振り。

ある挑戦者チームの全員の体力が0/3となり、転送された。



◇ ◇ ◇ ◇



・トミタ(猫)視点



俺は宿屋の食堂のテーブルに乗り、映像音声配信魔道具を眺める。


うーん、錬金魔獣が若干暴走しているような気もするが。


ま、いっか。



『これは予想外の展開。解説の若ニャンどう思う?』


『にゃああああん(マグロとカマスとサケのコラボレーション。ゼイシュドテイストソーデリシャス)』


『美味しそうだよね』



実況の橘若菜はやる気が無いのか、適当な事を言って流している。



「猫さん、いい年こいてロボット合体って、ダサいと思うんです」


「にゃー(馬鹿な! 合体ロボは夢と希望の詰まった、男のロマンだぞ!)」


「おっさん思考ですね」



俺の自信作である錬金魔獣の合体を、ヨツバにおっさん思考扱いされた。


そして食堂で見ていたお客さん達も、ポカーンとした顔をしていた。

誰か1人くらいテンション上げろよ。

せっかく気合い入れて作ったのに。

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