543.【後日談5】異世界転移! 魔獣都市マタタビ その14


・転移者 橘若菜視点



昼、自室にて。

ただいま、アンケートの精査中。


趣味について、趣味が無い人が多いみたいだった。

けど、働かなくていいなら暇になり、その時間を潰すために何かやると思うのだけど。


というかどうやって暇を潰している?

本当におしゃべりだけで時間を潰しているのかな?


何かを見落としている気がする。

うーん、何を?


ふと窓の外を見る。

年配男性が、黄色い猫を膝の上に乗せて昼寝している。


そういえば、おしゃべりの内容。

うちの魔獣ちゃんが~、といった物ばかりだった。



「……そうか!

人々の行動の中心が猫になっているんだ!

それなら色々と説明がつく!」



つまりこの都市の人間には全員、飼い猫が居るような状態。

だから猫の会話も弾む。結果、長時間会話が続く。


猫があくびしたら、人間もつられて眠くなる。

なので昼寝の時間が長時間占める。


逆に、猫と関係の無いものは、あまり流行らない。

まして、猫が出来ない事は、なおさら流行らない。



「いける!

方向性が見えてきた気がする!」



なおこの時、寝不足によって思考やテンションがおかしくなっている事には気づいていない。


ぴんぽーん。

玄関のチャイムが鳴る。



「むぅ、今いい所なんだけどなぁ」



仕事の調子が出てきた時に限って、誰かから横やりを入れられる。

よくあることだ。


アンケートの束を机に置き、自室を出て玄関に向かう。


さて、誰かなっと。


がちゃり。



「にゃああああああああん(はろー)」


「若にゃあん! おかえりー!」



頭に葉っぱを生やした白猫、若ニャンが帰ってきた。

若ニャンの後ろには、沢山の木箱があった。



「にゃあああああん(お土産、家に入れるの手伝ってー)」


「多くない? 20箱くらいあるけど」


「にゃああああああああん(白いシールを貼ってる8箱は、後で肉球魔王様に渡すんだー)」


「肉球魔王様?」



確かこの都市のボスだと聞いている。

猫神様より強いんだろうか。



「にゃああん(ゆーも会ったことあるだろー、薄情者ー)」


「え、そうなの? いや、猫の区別とかつかないし」


「にゃああああああん(ほい、写真)」



若ニャンが、宙に映像を投影する。

茶トラのデブ猫が、石畳の上に寝転がっている様子が映っている。



「って、これ猫神様じゃん」


「にゃあああああん(肉球魔王様だよー)」



言いつつ、えっさほいさと、若ニャンは前足で木箱を持ち上げ、器用に家の中へと運んでいく。


……神と魔王って兼任出来るの?

相反する存在のような気がするのだけど。



◇ ◇ ◇ ◇



木箱1つが30kgくらいあった。


それを23箱。

若ニャンと一緒に、家の中の店舗スペースへと運び終えた。


つ、疲れた……。



「って、四次元空間使えば良かった!」



首輪の四次元空間機能は、無生物ならば重量制限無しで物を収納出来る。

それを使っておけば、もっと楽出来たのに!



「あー、無駄に働いてしまった……おや?」



何となく木箱を数えてみると、22箱。


んん?


1箱足りない。


最初に数え間違えた?

うーん自信ない。



「若ニャン、お土産は23箱で良かったっけ?

あれ? 若ニャンはどこに行ったのかな」



自室に戻ってみる。


だけど若ニャンは居ない。



「出かけたのかな? お土産を猫神様に渡すって言ってたし」



でも、渡す予定の木箱はまだここにあるのだけど。



「……に……あ」


「ん?」



隣の部屋から、かすかに声が聞こえる。

確か猫トイレのあった部屋だ。


自室を出て、隣の部屋のドアを開ける。



「みゃん(わーい!)」


「にゃあああん(あっ)」



開けたドアから、赤毛の手のひらサイズの小さな猫が飛び出した。

赤猫は、私を見るとビクッとして止まり、毛を逆立てた。



「ふーっ!(人間だ! あっち行けー!)」


「え?」


「にゃあああん(見つかっちゃったー)」



どういうこと?



◇ ◇ ◇ ◇



魔獣都市マタタビでは、住人は働かなくても食べていける。

だけど、中央都市チザンでは、住人は働かなくては食べていけない。


そして、食べる物に困った住人が、泣く泣く子どもを捨てることがあるのだそうだ。


私の方を向いてフシャーフシャー言ってるこの赤色子猫も、親に捨てられたっぽい。


若ニャンは、道端に捨てられてるこの子を拾って、木箱の1つに入れて持ち帰ったのだ。



「でも何で、その事を隠してたの?」


「にゃあああああん(ゆーが『元の場所に戻してきなさい』とか言うと思ったからー)」


「私はそこまで鬼じゃないよ……」



飼うのを断るとしても、この子の里親募集をしてくれる組織に預けるように言うだろう。



「というか、勝手に連れてきて大丈夫?

その子に、魔獣都市マタタビの住人になる権利はあるの?」


「にゃああああん(やー、お金で解決したよー)」



魔獣都市マタタビへ定住したいという者は非常に多いため、本来は順番待ちをしなければならない。

すぐに定住出来るとしたら、よほどのVIP待遇だ。


だけど、役場に3000万マタタビほど納めれば、すぐに定住権が手に入るらしい。


住居も用意してくれるし、ご飯も無料で貰えるし、毎日お小遣いが入る。

他の都市と比べればここは楽園だ。



「ま、若ニャンが責任もって世話するなら飼ってもいいんじゃない?」


「にゃああああん(やったー)」


「みゃあん(おなかすいたー)」


「にゃああん(ゆーあーはんぐりー)」


「みゃああん(ゆーあー! はんぐりー!)」



赤毛の猫が、若ニャンの言葉をマネしている。

若ニャンのエセ外国語が伝染しそうで心配だ。




□□□□□□□□□□□


□後書き□


生物の入った木箱を四次元空間内に入れると、使用者がダメージを受けます。

若ニャンが四次元空間を使わずに木箱を持ち帰ったのは、そのためです。

他の22箱は、赤毛子どもネコ科魔獣を若菜から隠すためのカモフラージュでした。

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