521.【後日談5】憎しみと愛の献身 その4



・肉球魔王様視点


人間が寝静まり、ネコ科魔獣が元気な時間、深夜。錬金術工房前にて。


工房のボディガード、青毛で角の生えたネコ科魔獣の鬼丸は、運動不足なネコ科魔獣達に筋トレを教えていた。

魔獣幹部達も参加している。



「にゃっふ!(他人に裏切られても、自分さえ信じられなくなったとしても!

たった1つだけ、信じられる存在! そう、それが筋肉!)」


「みー(筋肉!)」


「まう(筋肉!)」


「にゃふう!(あらゆる事象を疑い、最後にたった1つだけ信じられる存在がある!

それが筋肉! 我思うゆえに筋肉あり!)」


「にゃー(筋肉?)」


「みゅ~(筋肉にゃ!)」


「にゃふ!(他者をいじめてはいけない! その者の可能性を潰してしまうから!

だが、筋肉は別だ! 筋肉を適度にいじめることで、さらなる高みへと登ることができる!)」


「んなー(筋肉ですな)」


「ガゥ(筋肉!)」


「にゃっふん!(ただしやり過ぎて骨や関節を壊す奴も居る! 適度な運動量に関してはトレーナーと相談だぜ!)」



鬼丸の言葉に感化されたネコ科魔獣達が、一所懸命に筋トレしている。

何だこれ。



◇ ◇ ◇ ◇



・錬金術師アレクサンドラ視点



喫茶店を出た俺は、次の場所へ向かう。


本来なら、もっとじっくりと調査したいところだが、どうやらあまり時間がかけられなさそうだ。


というのも、このフランベル国の都市を再現した空間、明らかに時間の流れが遅すぎる。


つまり、この空間で1日過ごすだけで、外ではそれ以上の時間が経ってしまうことになる。

浦島太郎現象というやつだ。既に外は数日間は経過しているはずだ。


その証拠に、俺の首輪型魔道具に『大丈夫ですか』とか『早く帰ってきてください』等のメッセージが繰り返されている。

メッセージの日付も、半日おきになっている。まだこの空間内では1時間も経っていないのだけど。


とにかく早々に調査を済ませなければならない。


俺が次に向かった場所は、フランベル国の、猫さんがよく通っていた宿屋にあたる場所。

材質は異なるが、やはり宿屋が建っていた。


ゴーレム達を外に待機させ、俺は宿屋に入る。


カランカラン。ドアベルが鳴る。



『いらっしゃいませー。って、アレックス君!

元気ー?』


「ネルおばさんですか?」


『おばさんじゃないよ!』



受付をしている骸骨、どうやらネルおばさんのものだ。

俺の見た感じ、この都市の動く骸骨達は、骨に残っている残留思念を、魔石によって増幅し、ゴーレムみたいに動かしているっぽい。


ちなみに本物のネルおばさんも、おばさん呼ばわりすると怒っていた。

今猫さんが蘇らせたネルおばさんは幼女になってしまっているけれども。


って、待て。

俺を見て、アレクサンドラだと認識したのはいい。

だが、彼女らが見ている夢の中では、俺は死んだ後のはずでは?



「俺が生きて、ここに居る事に何も思わないのですか?」


『うん、多分猫さんの仕業だろーからねー。

この場所の時間は、ゆっくりだからなー。

地上は、君が死んでから、多分1000年くらい経ってるんじゃないかなぁ』



ネルおばさんは、骸骨化しても、勘が鋭いようだ。

また、他の骸骨と違って“夢”を見ていない。

“現実”を認識している。



「この空間を司ってる者は、一体誰です?」


『またまたー、気づいてるくせに』


「一応、答え合わせをしようかと」



ネルおばさん骸骨は何も答えず、宿屋に飾ってある絵画の1つに顔を向けた。



『私は死んでる。でもあの子達は生きている。

今も苦しんでいる。どうか救ってあげてください』



絵画には、ネルおばさんと、おばさんの2人の娘が映っていた。

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