492.【後日談4】弟子入り その5


1時間後。

錬金術工房の錬金術師を、中庭に集めた。



「にゃー(では今からオリエンテーションを行う。

皆に、弟子入りのしおりを配るぞ)」



ホムンクルスにしおりを配らせる。

錬金術師全員に行き渡ったようだ。



「にゃー(毎朝早朝、指定した時間にここに集まり、全員で社訓を読み上げる。

あぁ、声が小さかったり、読み上げなかった者はペナルティで減給だ。

ペナルティに関する細々としたルールはしおりを参照するように)」



減給? 給料が出るのか?

そういった声が聞こえる。



「にゃー(1日に1万マタタビが基本給だ。

ペナルティ1つごとに1000マタタビ減る。

万が一、マイナスになった場合は、きつーいお仕置きがあるからな。

お仕置きに関しても、詳しくはしおりを参照するように)」



日給1万マタタビは、錬金術師にとってはかなり低い給料だ。

若い錬金術師のブーイングが聞こえてくる。


ま、一定のノルマをクリアすれば給料が増えるようになっている。

稼ぎたい者はノルマをクリアすればいい。



「にゃー(社訓読み上げの後は、論文の抄読しょうどく会。

今日は俺が発表する。

明日以降は毎日3名指名するので、そいつらに発表してもらう。

抄読会に使用する論文は、前日の昼食時に配るぞ)」



抄読会って何だ、という声が聞こえるが無視だ。

実際にやってみれば分かる。

俺はオリエンテーションを続ける。



「にゃー(抄読会が終わった後は論文の内容についてテストを行う。

細かい数値などは覚えなくても良いが、大まかな内容を要約し提出してもらう。

あぁ、要約の出来に応じて朝食が決定されるから、はげむように)」



発表した奴ら以外が受け身になっては、身につかない可能性が高い。

なのでテストを挟むことで、強制的にアクティブ・ラーニングさせる。



「にゃー(朝食後、俺やホムンクルスがレクチャーを行う。

レクチャーの最初に前日の内容のテストを行うから、復習はしておくように。

レクチャーの後は、昼食まで自由時間だ。

この自由時間を逃すと、夜まで自由時間が無いので、しっかり休憩しろよ)」



自主学習では限界のある内容については、レクチャーするしかない。



「にゃー(昼食後、再びこの中庭に集まってもらう。

中庭の端に、洞窟が出来ているだろう?

あれは俺が作った人工ダンジョンだ。

そこで指定した課題をこなしてもらう。

課題は各人バラバラだが、似た課題を貰った者はチームを組んでもいいだろう。

夜の9時になったら強制的に失敗扱いとなり、中庭に転移させられる)」



錬金術の実践に関しては、現地でしか学べない事も多い。

また、普段|籠(こも)りっぱなしの錬金術師達にとっては、良い運動になるだろう。



「にゃー(夜は自由時間だが、夕食をしっかり摂って、復習や次の日の抄読会で使う論文を読んでおくように。

皆の行動は逐一(ちくいち)監視している。

もしサボってテストで悪い点を取った場合、後悔させるのでそのつもりで)」



錬金術師達が、俺の配ったしおりを読んで、後悔させる、の内容を確認して顔を青くした。

ま、真面目にやってりゃ大丈夫だから心配するな。



「にゃー(他、色々なルールを定めているが、全てしおりの中に入っている。

じゃあ、早朝ではないが、社訓の読み上げから始めようか。

その後すぐに抄読会をするぞ)」



さぁ、楽しい楽しい研修、もとい修行の始まりだ。



◇ ◇ ◇ ◇



「ニャー(さて、おやつでも食べるとしよう)」



俺は雑貨屋クローバーのカウンターで、おやつのまぐろちゅるるーんを皿に出して、食べていた。



「あれ? 猫さん、錬金術工房の錬金術師達の面倒を見てたんじゃないの?

こんな所でおやつ食べてていいのかな?」



アレックス君がやってきた。

俺をモフろうとしてきたが、シュッ、と猫パンチを繰り出し『触るな』と意思表示だ。

今は食事中だからやめろ。



「ニャー(もう一人の俺が面倒を見ているんだ。

内部時間で1ヶ月交代だぞ)」



内部は1825倍の時間差だから、こっちの時間だと24分くらいで交代だ。

とはいえ、お互いの視覚や聴覚などの感覚を共有状態にしているので、何やってるか等はだいたい分かる。

睡眠は向こうで取っている。なので、外部の俺は24時間ずっと起きてるように見えるだろう。


おっと、時間だ。四次元ワープ!

もう一人の俺と入れ替わる。



◇ ◇ ◇ ◇



「にゃー(さて、おやつを食べるか)」



俺は雑貨屋クローバーのカウンターに四次元ワープし、おやつのまぐろちゅるるーんを皿に出して、食べ始める。



「あれ? さっきも同じの食べたよね?」


「にゃー(味覚は共有してないからな)」


「???」



そういやアレックス君は、俺の偽物君騒動の時は居なかった気がする。

だが説明するのが面倒だ。適当に誤魔化すか。



「にゃー(実は俺、分身の術が出来るようになったんだ)」


「ワォ! 忍者ってやつだね! ニンニン!」


「にゃー(錬金術師の研修は分身に任せ、俺は優雅におやつタイムと洒落込むわけだ)」


「なるほど」



などと雑談していたら、時間になった。

四次元ワープ!

もう一人の俺と入れ替わる。



◇ ◇ ◇ ◇



「ニャー(さて、おやつを食べよう)」



俺は雑貨屋クローバーのカウンターに四次元ワープし、おやつのまぐろちゅるるーんを皿に出して、食べ始める。



「猫さん、さっきもそれ食べてたよ……」



何だよアレックス君、1ヶ月ぶりの俺のオヤツにケチつけるんじゃないぞ。

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