488.【後日談4】弟子入り その1
夜の中央広場にて。
今日の魔獣幹部の会合の議題は、都市運営費について。
魔獣都市マタタビでは、住民から税金を取っていない。
では都市はどのように運営費を稼いでいるのか。
市営のいくつかの企業の売上から、一部を魔獣都市マタタビの運営費として差し引いているのだ。
中でも、マック君とカルロ君が務めている錬金術工房の売上が、都市運営費の大部分を占めている。
だが、この1年間で、錬金術工房の売上が激減した。
他の市営企業に関しても、売上がかなり減少。
都市運営費が初めて赤字になった。
今はまだ蓄えがあるから大丈夫だが、このままだと都市の運営費が足りなくなるらしい。
「んなー(で、原因は何ですかな?)」
「うんみゅう(錬金術工房以外に関しては、雑貨屋クローバーが原因。
あそこに多くのお客が流れた。
提供する商品の質、値段、速度、全てにおいて市営企業が負けている)」
まぁ、俺やヨツバが監修し、ホムンクルス達が全世界規模で展開しているのだ。
市場の独占こそしていないものの、多くの分野に影響を与えているのは否定できない。
「にゃー(仕方ない。雑貨屋クローバーの売上から、俺の取り分のいくらか都市運営費として納めるよ)」
「んなお(おお、肉球魔王様の力があれば百人力ですな!)」
「うみゅう(いつまでも肉球魔王様に頼るのは情けない。
市営企業の改善点を見つけるために、視察と指導も始めるべき)」
「ガゥ!(視察はともかく、指導って誰がやるの? 俺は無理だぞ)」
「アァー……チラッ」
ゾンビキャットが俺の方を向く。
やれと言われたらやるが、俺は厳しいぞ?
「んなー(指導に関しては、視察の結果を見てからでいいでしょう。
問題は錬金術工房に関してですな。
前年度売上と比べ、今年度はマイナス90%……金の亡者、あなたは錬金術工房の責任者でしょう?
いったい、何をしてたんです?)」
「うみゅ(アレクサンドラ研究所にお客を取られた)」
「んなぅう(アレクサンドラというのは、肉球魔王様が連れてきた錬金術師でしょう?
なぜ錬金術工房は、彼を取り込んでいないのですかな?)」
「うんみゅ(取り込もうとした。施設も、人材も与えようとした。
だけどお気に召さなかったみたい)」
「で? たった1年で市場を奪われて、この有様かい?
金の亡者、アンタ、サボってたわけじゃないだろうねぇ?」
「にゃー(待てお前ら。金の亡者を責めるな。
俺でもアレックス君を相手にするのはしんどいぞ)」
金色のネコ科魔獣幹部、金の亡者がシュンとしていたので、俺は庇(かば)うことにした。
フランベル国に居た頃の、周りが足を引っ張るような環境でさえ、アレックス君はゴーレム作成のための莫大な研究資金を調達してみせた。
彼は錬金術だけでなく、パトロン集めの才能もある。
今はアレックス君にとっては、何者にも縛られない絶好の環境。
フランベル国時代の比じゃない活動量だ。
並の奴では張り合う事は出来ないだろう。
「にゃー(今の錬金術工房の奴らはほとんどが、保守的な考えの持ち主だ。
アレクサンドラ研究所にかろうじて張り合えるのは、マック君とカルロ君くらいしか居ないな。
いっそ錬金術工房を、アレクサンドラ研究所の下請け業者にするのはどうだろう。
売上の一部は都市運営費にする、というのは継続で)」
「……うみゅう(工房の皆に聞いてみる)」
その後、簡単な連絡事項の確認をして、今日の会合は解散となった。
◇ ◇ ◇ ◇
・金の亡者視点
錬金術工房の会議室にて。
工房の錬金術師達を集め、昨晩の会合の内容を伝えた。
「我々は、由緒正しき錬金術の総本山ですぞ!
それを、ぽっと出の研究所の下請け業者になるなど!」
「ありえない。私達のプライドが許さない」
「うーん、猫さんが言ったのなら、仕方ないかなぁ」
「マクドーン! あなた正気!?」
錬金術工房は、長く、世界の錬金術のトップ企業として君臨してきた。
他の国の技術がベヒーモスによって失われ、その影響で錬金術の技術はほとんど魔獣都市マタタビが独占状態だった。
独占状態は競争を生まない。
錬金術工房に就く事で、錬金術師達は、実力に不相応な高給取りになってしまった。
身の丈に合わない扱いを長年受け、やがて自分達が偉い存在であると誤解してしまった。
錬金術工房は知らぬ間に、利権に目がくらんだ、あるいはプライドが肥大化した錬金術師達の巣窟(そうくつ)になってしまっていた。
「うみゅう(それじゃあ、何か代わりに案ある?
このままだと、錬金術工房、無くなるよ)」
「……」
皆が黙っていると、すくっ、とカルロが立ち上がる。
「これは工房のトップである私と、金の亡者の責任です。
錬金術工房は無くさない、下請けにもさせない。
少し時間をください。私達が、解決策を探して来ます」
会議は解散、各々は仕事に戻った。
カルロはボクを抱っこし、工房の外に出る。
「うみゅみゅー(どこ行くの?)」
「雑貨屋クローバー。もう手段を選んでいる場合じゃないみたいですから」
そして雑貨屋クローバー店内のレジカウンターで、キャットフードの袋に頬ずりしてる肉球魔王様の前にやって来た。
「肉球魔王様、私達を弟子にしてください」
肉球魔王様はこっちを見て、自分の右前足の肉球をペロペロ舐めつつ、考え事をしはじめた。
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