485.【後日談4】錬金術の神、スキルを作成する その1


昼の雑貨屋クローバーのカウンターにて。


新商品のネコ科魔獣用ゼリー(マグロ味)を試食し、感想を首輪型PCで書いていると、アレックス君がやって来た。

珍しいな。普段は研究所にもりっぱなしなのに。



「猫さん、ちょっといいかな?」


「にゃー(どうしたんだ?)」


「魔道具制作の際に気づいた、スキルについての俺の考察を書いた。

読んでみて欲しい」



分厚いレポート用紙の束を受け取る。


ふむ。


魔道具とは、道具に魔石と魔法式を組み込み、ある条件下でスキルのような効果が発動するような道具だ。

その際、魔石が触媒とエネルギー供給の役割を果たす。


アレックス君はふと、魔石の代わりに人体、あるいは魔獣の体を使えないか、とひらめいたらしい。

そうすれば魔石を使用しない、自分の魔力だけで使う事が出来る魔道具が出来上がるからだ。


結果的にその試みは成功し、魔獣都市マタタビには、魔石を使用しない魔道具が徐々に浸透しつつある。


だが、アレックス君はそこで止まらなかった。


次に彼がひらめいたのは、体に魔法式を組み込む事が出来たなら、魔道具を持たずに魔法が使えるのではないか、ということだった。


結論からいうと、これも成功した。

魔石を使用しない魔道具を改造し、魔道具臓器として体に埋め込むことで、魔道具の効果が使える体を作る事に成功したとのこと。

実際に魔道具臓器を使用している者はごく少数らしいが。


魔道具臓器を作った際、アレックス君はふと思った。

自分が作ったこれは、【スキル付与】のようなものじゃないか、と。


ならばスキルを人工的に作る事も可能なのでは?


だが、アレックス君の快進撃もここまでだったようだ。

数々の仮説を立てて実験を繰り返し、数千のネズミ科魔獣を実験体として犠牲にしたが、手がかり1つ得られなかった。


このままじゃらちが明かないとのことなので、俺の所に来たらしい。

ヒントを何か貰えないか、と。



「にゃー(じゃあ、俺が前にやった授業のビデオを見るといいぞ)」

(※434話参照)


「へー。これは、スキルについてのレクチャー?」



この授業を行ったのは、アレックス君を蘇生する前だ。

アレックス君が気づいていないのも仕方ない。

アーカイブには膨大な量の授業が録画されているからな。


アレックス君はそれを見る。

そして何か気づいたらしい。

ありがとう! と一言残して去ってしまった。


もっとゆっくりしていけばいいのに。



『トミタ、やはり天才というのは見ていて気持ちが良いな。

わずか1年と少しでここまでやってのけるのは、見事としか言いようが無い)』



鑑定神ソフが話しかけてきた。

コイツ、アレックス君の事好きだな。



「にゃー(俺としては、そんなに急がなくてもいいのにな、と思うが)」


『逆にトミタはのんびりしていていいのか?

このままだと、彼はあと2年ほどで、お前から『錬金術の神』の称号を奪ってしまうぞ?』


「にゃー(その時は、その時だ)」



称号というのは、よりふさわしい者の元へと移る。

いわば階級を示すバッジのようなもの。


俺よりアレックス君が錬金術を極めたというのなら、それでも別に構わない。

称号を管理する神が、そのように手続きし、称号を移すことだろう。


だが、俺だって研究者の端くれ。

研究という畑で黙って負けてやるつもりは毛頭ない。

アレックス君の先輩、またライバルとしてのプライドだってあるのだ。


錬金術の神が管理するスキルは、現在【加速錬成】【変性錬成】【分離錬成】の3つのみ。


だが、神は自らが管理するスキルを開発し、増やすことが出来る。

俺はさっそくスキルを作り始めることにした。


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