447.【後日談4】天才錬金術師 その3


アレックス君に抱っこされて、魔獣都市マタタビを散歩中だ。



「さっき本で知ったんだけど、この都市の人間は、全員魔道具の首輪を付けてるんだね」


『便利だぞ』と首輪型PCで空中に文字を投影する。

抱っこ中だから、重いエメラルド板は使わない。


アレックス君に、この都市で配っている翻訳機能+電子マネー機能等の付いた首輪を渡してみる。



「俺もさっそく付けてみよう」



カチッ。アレックス君は首輪を付けた。



「んみゃー(あー、肉球魔王様が抱っこされてるー)」


「にゃー(快適だぞ)」


「なー(腹減ったなぁ。お、こんな所に美味しそうなカリカリが)」


「くるにゃ(わーん! 目を離した隙に、僕のご飯が知らない奴に食べられてるー!

このやろー!)」


「にゃー(こらこら、喧嘩するな)」


「魔獣の会話内容が網膜に映る仕組みなのか。これは便利そうだ。

人間だけじゃ出来ない実験も、魔獣の力を借りられたら……」



アレックス君は実験に魔獣の協力を、と考えているみたいだが、ネコ科魔獣は飽きっぽいから、多分無理だろうな。



◇ ◇ ◇ ◇



抱っこされたままアレックス君と向かった先は、ネルの居る宿屋だった。

てっきり錬金術の道具を買いに、雑貨屋に行くものかと思っていたが。



「ネルおばさんに挨拶しておかなきゃね」



言いながらアレックス君がドアをノックすると、ナンシーさんが出迎えてくれた。



「あら、猫さん。こんにちは。いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件ですか?」



アレックス君相手よりも先に俺に挨拶してしまうナンシーさんはお茶目だな。



「ヴァ、ヴァニラがどうしてここに……猫さんの蘇生リストには入ってなかったはずなのに……」


「?? ええと? ヴァニラ? 蘇生リスト?」



おっと、蘇生リストの件はナンシーさんには内緒だ。

アレックス君の網膜に『蘇生リストの件はナンシーさんや他の人にしゃべるなよ。

ナンシーさんはネルの娘のヴァニラに似ているが別人だ』と錬金術で文字を投影する。



「ナンシーさん? そういえばネルおばさんの母親が確かそんな名前だった気が」


「はぁ、確かに私はネルの母親ですが」


「ネルはおばさんじゃないよ! おじさん!」



ネルがナンシーさんの後ろから現れて、ビシッとアレックス君を指さした。



「こら、人を指差ししちゃ駄目よ。うちの子が失礼しました。

ところで、ご用件は何でしょうか?」


「あぁ、その……宿泊でお願いします」


「かしこまりました、どうぞこちらへ」



アレックス君が俺を降ろし、受付で記帳している。



「猫さん、猫さん、あの不審者は誰?」


ネルに対し『不審者じゃないぞ』と、こっそりエメラルド板を取り出し刻んで見せる。

ナンシーさんにバレないうちにエメラルド板は仕舞う。



「あら? フランベル国の金貨なんて久しぶりに見たわ。

お客さん、珍しい物を持っていらっしゃるのね」


「……ハッ?! そうか、確かフランベル国は既に……支払いはこれじゃ駄目ですか?」


「いいえ? 問題ありませんよ。ネコ科魔獣の幹部さんに、異国の金貨を集めてる物好きな魔獣さんがいらっしゃるので。

後で彼に買い取ってもらいますから」


「お手数おかけします」



宿泊の手続きが終わり、アレックス君は出ていく。

俺はついていく。



「待ってよ猫さーん。ママー、出かけてもいいー?」


「いいけど、アレックスさんの仕事の邪魔をしちゃ駄目よ?」


「はーい!」



◇ ◇ ◇ ◇



「……行ったわね。それにしても、マクドーンさんとパーシーさんの子どもと同じ名前だったわね。

容姿も同じような感じだったし。もしかして」


「みゃお(暇なので遊んでください!)」


「あらサバさん。いいわよ、コレ貸してあげる」



サバさんはナンシーさんから金貨を受け取った。

それを前足で弾いて遊ぶ。


10分後、物置の隙間に金貨が入り取れなくなった。

サバさんの前足では短すぎて届かない。


サバさんは賢い猫なので、このまま金貨が取れないとナンシーさんが困ると思い、大いに慌てた。

必死に前足を隙間に入れて、金貨を取り出そうとする。


ナンシーさんはその様子をニコニコしながら見て、サバさんが疲れたタイミングで金貨を取ってあげた。



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