386.【後日談2】【クロスオーバー(メニダン)】働くヨツバ


・ヨツバ視点



近未来世界に旅行に来たと思ったら、何故かアルバイトを勧められた。

猫さんは何を考えているんだろう。


まあせっかくだし、社会勉強がてらやってみるとしよう。


といっても、注文を受けて、料理を出すのは雑貨屋クローバーや宿でしていたのと変わりない。


このメイド喫茶『ブリティッシュ・ブレックファスト』では、注文1品につき、注文が来るまで3分、注文が来た後3分、客の話し相手をすることになっている。



「料理が来るまで、お相手致しますねご主人様」



自分で言って鳥肌が立ちそうなキモいセリフだが、商売には時にプライドも羞恥心も捨てなければならない時がある。

今がその時、なのはどうかは知らないけど。


お客さんは、メイド喫茶と縁が無さそうな、爽やか系の男子だった。



「実は彼女にプレゼントを買いたいんだけど、何をプレゼントすればいいのか迷ってるんだ」



リア充爆発しろ!



「彼女さんに直接聞いてみてはどうでしょう?」


「いや、ドッキリさせたくてさ」



そんなドッキリ要らないです。

貰って微妙な物をプレゼントされた時の彼女さんの気持ちを考えた事があるのか。

無いか。無いだろうなー、畜生リア充がァ!


と、そんな内心は一切顔に表さない。



「換金率の高い物とかどうでしょう?」


「いや、そんな高級な物を買うつもりはなくてさ」



ああヤダ、面倒くさーい。


なんて考えていると、横から土倉花がひょいと顔を出してきた。



「何で直接、彼女に聞かないの? ヘタレなの?

ってかそういうドッキリ、失敗したら悲惨だよ?

そもそも、こんな場所で相談するような事じゃないよねー?

……馬鹿なの?」


「ぐほっ?!」



爽やか君の心に、右ストレートが決まった。

私が思ってても遠慮して言わなかった事を、こうもスッパリ言ってしまうとは。

土倉花、恐るべし。



「ホットケーキ上がったぞー」



厨房からホットケーキを受け取り、爽やか君の所に置く。



「ご主人様、どうぞ。出来たてで」


「ガツガツガツガツ! ゴクゴクゴク……」



彼は出したホットケーキを速攻で食べ、水で流し込んだ。



「ぷはっ。ごちそうさま! 欲しいものは直接、彼女に聞いてみるよ!

今日はありがとう!」



爽やか君はサッと会計を済ませて、去ってしまった。


外を見ると、ガラス越しに猫さんが手を振っている。

その後ろに10人くらい集まって、猫さんを撮影している。

何だあれ。



「(……ッ?! あの客は……!)」



お客さんが入った途端、店員の一人が顔を歪めた。どうしたのかな。



「(よりによって今日来たか!

メイド喫茶のアルバイト女子を不快にさせる、キモデブワキガ男!

いい加減、出禁にしてよ店長!)」



土倉花も、何だかあのお客さんを睨んでいる。


ちょっと不衛生だけど、あの程度の客、宿屋で働いていた頃は腐るほど見てきた。



「【ヒール】【クリア】」



回復魔法で細菌を除去、浄化魔法で体表の老廃物を除去。

これで彼は清潔だ。


お、私が指名されたっぽい。



「(あああ、ヨツバさんが……)」


「おかえりなさいませ、ご主人様」


「萌えキュンオムライス1つおなしゃす」



その後、喋っている時にツバを飛ばされたけど全部反射して、彼に返してやった。

住所とか高校とか色々聞いてきたけど、適当に流してやった。

ってかマナー悪いなこの客。


オムライス食べて喋って満足したのか、彼はニコニコして帰っていった。

あれで良かったんだろうか。



「うぉおお! スゲー!」


「彼相手に顔色一つ変えず対応……プロか」



アルバイトの子達に褒められている理由が分からない。

それよりイケメンの相手がしたいです。


その後は声の小さい男性客ばかり相手にして、今日のバイトは終了。

給料は日給制で、その場で貰えるみたいだ。


それはいいんだけど。



「にゃー(う~ん、サーロインステーキ……)」



猫さんはこっち向きで横になり、昼寝していた。

人が必死に働いたというのに、いい身分だ。


その周りを、きゃーきゃー言いながら写真アプリでカシャカシャ撮る通行人達。

たまにモフられているが、一向に起きない。


ちょっとイラっとしたから、その顔に水でもぶっかけてやろうかしら。



「にゃー(……ん? 殺気?)」



コップに水を入れたところで、丁度猫さんが目を覚ました。

勘の良い奴め。



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