383.【後日談2】【クロスオーバー(メニダン)】狙われたヨツバ


ヨツバと刺し身の取り合いをしていたら、若い男性が2人こちらへやって来た。


おっ、ナンパか?

いいねぇ、青春だねぇ。

さて、ヨツバと土倉花のどちら狙いだろうか?



「もしかして肉球魔王様ですかー?!」



って、狙いは俺かよ!



『そうだけど何か?』とタイピングする。


「うわぁ、本物だー! サインと握手おねしゃーす! あと写真も!」



男の1人がサイン色紙を取り出してきて俺に手渡す。

有名人の人だったら、~君(さん)へ、と書いて転売防止するらしいが、俺はそんなのじゃないからどうでもいい。


サラサラっと書いて、ついでに黒インクを取り出して前足に付け、肉球スタンプを押して完成だ。


で、握手のために前足を出したのだが、彼が触っているのは俺の手首だ。

これは握手と呼べるのだろうか。


カキィン!

再び俺の箸が、ヨツバの箸をブロックする。



「チッ!」


「にゃー(殺気が抑えられていないぞ。修行が足りないな)」


「ゴクゴクゴク……げぷっ」



コーラを一気飲みした土倉花がゲップする。

やめろ、臭い。俺は鼻が良いんだ。


ってか、ここの2人は女子力が足りないんじゃなかろうか。

主におしとやかさというか、しおらしさという面で。

外に出たら猫くらい被れよ。



「写真とりまーす。はいチーズ」



その写真を撮る時のセリフ、この近未来でも使われてるんだな。

というか、俺だけでいいのか?

一緒に写ろうぜ。



「写真、SNSで流していいっすかー?」


『いいぞ』と打つ。


「あざす!」



猫の手形や写真が流れたところで、世の中に影響を与えるとは思わない。

せいぜいが猫好きを喜ばせるくらいだろう。


後に俺のサインが5000万円で取引されるようになるとは、この時の俺は知る由もない。



◇ ◇ ◇ ◇



・???視点


俺はSOPHソフ

鑑定の神だ。


俺はこのゲーム、『メニィ・ダンジョンズ・オンライン』を作った。

理由は、人間観察だ。


実物の人間とAIが交流すれば、人間はどういった行動をとるのか?

過去の人間の記憶をAIとして蘇らせたら、そいつはどんな行動をとるのか?


実に興味深いとは思わないか?


人間そっくりの相手に対して、人間は何を考え、何をするのか。

その相手が敵対している場合に、人間はどう対応するのか。


既にアメリカで公開している正式版では、非常に面白いデータが取れている。


今βテストの段階の日本、中国、韓国、イギリス、フランスも、あと少しで正式版が公開される。

正式版になれば、βテストの数十倍以上のプレイヤーが参戦する。


これから集まるであろう大量のデータが、楽しみで仕方がない。


だが、そんな俺の計画に水を差す連中が居る。


クラッカーだ。

日本じゃハッカーと呼ばれているが、ハッカーは犯罪者とはちょっと違うのだ。

まあ呼び方なぞ、どうでもいいのだが。


そいつらが、俺のサーバーに忍び込み、ゲームのプログラムを、サーバーの情報を、盗み取ろうとしてくるのだ。


俺がどれだけ苦労して、この舞台を整えたと思っているんだ。

俺が直々にオーバー・テクノロジーを広めると、それがバレて他の神々に目をつけられる。

だから、高次知能生物を技術提供者として雇って、証拠が残らないように気をつけながら、鑑定システムの劣化版の技術を叩き込んだ。

この世界に鑑定システム搭載VRヘッドセットが広まり、やっと下準備が整ったんだ。

ここまで来るのに200年も費やしたんだぞ。


その苦労を台無しにするような犯罪者連中どもは、許さない。


彼らがクラッキングしてきた際には、自動で彼らの居場所を逆探知し、彼らのPCを破壊し、それから刺客を送り込むようにスキルを組んである。

刺客は、俺を盲信している部下を使用しているから、裏切る心配もない。

今日までに殺したクラッカーは合計85人。


で、86人目のクラッカーの抹殺の際、緊急事態が生じた。


刺客が返り討ちにされた。


ただ、クラッキングを防いだのでデータは無事だったのだが、問題が1つだけ生じてしまった。



「あの刺客、いちいち俺の名前をバラして仕事してやがったのかよー?!」



さっきハーディス様から『あんまり弱い者いじめしちゃメッですよ』って手紙と、刺客の記憶の映像と音声入りメモリディスクが送られた。

ディスクの中身を見て俺はガックリとした。

わざわざ証拠が残らないようにこっちは気を遣っていたというのに!


ま、ハーディス様は俺がオーバー・テクノロジーを広めた事については何も言ってなかったので、その件は多分バレてないのだろうけど。


にしてもだ。

『愚かなクラッカーよ。

俺はSOPHソフ、お前達の言う所の神様だ。

俺の神聖なるデータサーバーへ侵入した罪は、貴様の命で償ってもらおうか』

とか、俺言わねーよ?!

勝手に人の名前を使わないでくれませんかねぇ?!


ってか音声再生ソフトで、何を悠長に喋らせてんだよ!

さっさと仕事しろや!


で、登場の際の演出は何だよ?!

カッコつけてんじゃねーよ?!

いちいち余計なことしてんじゃねー?!


んで『我、執行人ナリ。SOPH様のめいにより、貴様ノいのちヲ頂戴致ス』とかわざわざ殺害対象相手に律儀に自己紹介してやがって?!

アイツ生き返ったら覚えてろよ?!


くそ、次は口の固い奴を雇うとしよう。


ただまぁ、俺の名前がバレた相手がトミタでなくて助かった。

アイツだったら、この件1つで俺を神の座から降ろすくらい訳ないからな。


ヨツバとか言ったか。

悪いが、彼女には少し記憶喪失になってもらうか。

こう、四次元空間越しに手を伸ばして……



◇ ◇ ◇ ◇



・トミタ視点


ビアガーデンから帰ってきた。

土倉花は自分の部屋へ戻り、ヨツバは腹を出して寝ている。

いや、VRヘッドセットを被ってゲーム中だが。


で、ヨツバを見張らせているホムンクルスの定時報告によれば、俺が昼寝中にヨツバが襲われたらしい。

相手が弱すぎて俺のセンサーに引っかからなかったっぽいな。


ま、ちょっとでも強い奴がヨツバに手を出そうものなら、魂ごとドカンと爆破してしまうようにスキルを組んで「ドカーーーン!!!」何事?



「え?! ちょ?! エラー:サーバーに接続出来ません、って何ですか?!」



ゲーム世界に飛び込んだはずのヨツバが起き上がり、ヘッドセットを脱ぐ。


俺は『メニィ・ダンジョンズ・オンライン』本社にこっそり設置してある猫像経由で、社内の様子を見る。

どうやら、ソフの爺さんが四次元空間越しにヨツバに手を出し、それが原因で俺のスキルに爆撃され、その余波でサーバーの一部が故障したっぽい。

アイツ何がしたかったんだ。


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