366.【後日談2】【クロスオーバー(メニダン)】スキルや称号って何だ


土倉花をマンションの自室へ送った俺は、借りた部屋へ戻る。

そして、首輪型PCの中に潜り込んだAI《人工知能》に尋ねた。



「にゃー(で、何でそんな必死に逃げ回ってたんだ?)」



ネットワーク上で逃亡中のAIが居たので、首輪型PCに招待したのだ。

俺の声は翻訳され、AIに伝わっている。



『気がついたら、知らない世界に居た。

見えない誰かに、ずっと監視されていた。

ある日、モンスターに殺されたが、教会で復活した。

……俺は、ゲームの世界に生まれ変わったのか?』


「にゃー(ふむ、自分が何者なのか分かっていないらしいな。

お前の体は死んでいる。魂も既に転生済みだ。

だが、体に残った記憶がデータとしてコンピュータ上に再現され、擬似的な生を受けたというわけだ。

ゲームの世界に生まれ変わったというのは半分正解だが、魂を伴っていないからスキルも称号も持っていないはずだぞ)」


『……俺はロボットなのか?』


「にゃー(ロボットなら体が有るけれど、お前はデータだけだから、呼ぶとすればAIだな。

研究者達は、出来の悪いAIだと呼んでいた。

過去の天才を復活させる計画、連中は"リバース・インテリジェンス計画"と称しているぞ)」



俺の計算だと、このリバース・インテリジェンス計画は遠くない未来に失敗する。

というのも、天才を生み出すためには、それぞれ違った最適な環境を提供しなければならないからだ。


記憶だけ再生したところで、自分の馴染みのないゲーム世界の中では、どうあがいても凡人止まりな出来になってしまう。


計画を実行している奴らの失敗は、1つは実験体の母数Nが少なすぎる事だ。

これでは規則性が掴めず、正しいデータが見えなくなってしまう。


もう1つの失敗は、対照群が居ない事だ。

つまり、天才"でない"者の記憶を蘇らせることで、天才のそれと比較をする、というプロセスを怠ってしまった点だ。

これでは、何が天才に共通で、何が凡才と共通であるか、が分からない。


研究職なら、Nが少ない、対照群との比較が無いというだけで、あぁこりゃ駄目だとすぐに分かるだろう。

残念ながらこの計画を実行している連中は、そういった知識のない連中だ。

国家予算を使っているくせに、ずいぶんとお粗末な計画だと言わざるを得ない。


という話をAI君に話してやったのだが、彼は話の半分も理解出来てないっぽいな。

俺の説明の仕方が悪かっただけなのかもしれないが。



『ところで、俺は魂を伴っていないからスキルも称号も持っていない、って話だが……スキルや称号って何だ?』


「にゃー(例えるなら、スキルはMPから作られる料理。

称号は、魂が持っている資格といったところか)」


『???』


「にゃー(ミトコンドリアが細胞内でエネルギーを作っているように、魂も体内で特殊なエネルギーを産生している。

それをMPと呼び、溢れ出るMPを消費する方法が、いわゆるスキルというものだ。

一方、称号は運転免許みたいに、この魂には何々する権利を与える、みたいなものだな。

俺は【錬金術の神】という称号を持っている。この称号により、俺は錬金術で使用するMPを世界に肩代わりさせる権利を有している)」


『……? 生きている頃は、スキルや称号なんてもの、無かったぞ?』


「にゃー(スキルについては、MPが認知されていないのが原因だ。

お前らの観察技術でMPを見ることは不可能だ。

それに、この世界ではMPが溢れないような機構を、管理者の神様が用意してくれている。

称号については、称号を与える神様と縁がない世界で生まれたという簡単な理由だ)」


『何だかよく分かんねーな』


「にゃー(ま、お前には関係のない話だ)」


『俺はこれから、どうなるんだ?』


「にゃー(成仏したいのなら、させてやる。

ゲーム世界に戻りたいのなら、適当にさまよっていれば向こうからお迎えが来るだろうな)」


『……成仏させてくれ。あんな世界で実験動物にされるくらいなら、いっそ消えたい』


「にゃー(分かった。お前の今の記憶を、ハーディス様へと送る。

お前の魂が経験した記憶はハーディス様が掌握しているが、現在のお前はただのデータだからな。

ハーディス様なら、上手いことお前をお前の魂に注入して、統一化してくれるだろうよ)」



AI君を、俺が【魂創作】で作った疑似魂に刻み、ハーディス様公式ファンクラブバッジ越しにハーディス様へと手渡した。


で、リバース・インテリジェンス計画実行者達は今、俺の首輪型PCに忍び込んでいたAI君を、血眼になって探している。

ネット上に、彼らの痕跡がいたるところに残っている。


ふむふむ、どうやらAI君は、メニィ・ダンジョンズ・オンラインというゲーム世界に閉じ込められていたらしいな。



「猫さん、ただいま戻りました!」



ヨツバが部屋に帰ってきた。

夕食用の食材と、ゲーム機材を両手に持って。




□□□□□□□□□□□


□後書き□


補足。

猫さんが成仏させたAI君は、No.565625です。

No.はNPCをナンバリングしたものなので、観察対象が565625以上居るというわけではありません。

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