362.【後日談2】後片付け
・魔獣都市マタタビ、中央広場
ギャラリーの悲痛な叫びの後、4属性ゴーレム達の亡骸が光る。
ベリ、ベリ、と表面が剥がれて、中から現れたのは、生まれ変わった4属性ゴーレム、いや、4体の神獣だった。
「何っ?!」
「奴ら、変身しやがった?!」
勇者達が驚く声を上げると同時に、その場に倒れる。
神獣の目にも留まらぬ猛攻に、ホムンクルスが耐えられず、その余波が勇者達を襲ったのだ。
ホムンクルスは1体、2体、と撤退し徐々に数が減り、とうとう勇者達を守るホムンクルスは居なくなった。
「ヒッ……」
勇者達は初めて、死が迫りくる恐怖を味わった。
目の前には、燃える鬼、氷の河童、アダマンタイトの大坊主、嵐の天狗が勇者達を見下ろしていた。
鬼は勇者達へと拳を振り下ろす。
ドスン、と鈍い音の後、拳を上げる。
そこにはドロドロに溶けた地面が見えるだけだった。
空に、『試験合格だ』と雲で文字が描かれた。
試験をやり遂げた4体は、その場へ倒れ込んだ。
緊張と疲れ、そして進化で、体が限界だったのだ。
4体は晴れやかな笑顔で、ギャラリーに囲まれながら眠りについた。
◇ ◇ ◇ ◇
・肉球魔王様視点
『ちょっくら後片付けを済ませてくる』とエメラルド板に刻む。
「その四次元空間内に仕舞った勇者の件ですか?」
ヨツバの質問に対し『まあ、そんなところだ』と刻む。
俺は、日本の猫神像と感覚共有し、猫神像の近くへ勇者達を四次元空間内から取り出し置いた。
「……サラリと、とんでもない事しますね。
『魔王を倒しに行ったら、日本に強制送還されたんだが』みたいなローファンタジーが1本出来上がりそうです」
『さて、それじゃ行ってきます』と刻む。
勇者達はこれでいいだろう。
イヴォンヌとかいう下っ端の神も、どうでもいい。
俺は目的地へ向かって、加速度操作で飛ぶことにした。
◇ ◇ ◇ ◇
・ある神スペース
ロウソクの薄暗い光だけが唯一の光源の部屋にて。
ダークフレイム・オーク製の丸テーブルに着いた3体の神が、向かい合っていた。
ここは、神の中でも一部の者しか知らない組織の本部。
神や、神に至る者の中でも目障りになる者を、天罰の名のもとに、秘密裏に消す事を行っている。
「イヴォンヌの【進化蘇生】への仕込みはどうでした?」
「ええ。誰にも、スキルを使ったイヴォンヌにすら気づかれずに、叛逆の芽を埋め込ませましたよ。
これで肉球魔王は約200年以内に、自らの家臣の4体の人形によって、殺されるでしょう」
「もちろん、愛する者を失った主が暴走したので、それを止めようとしたという名目で、ね。
肉球魔王は未だにマクドーンの死にトラウマがあるようですし、人形に八つ当たりするほど心が荒んでいる。
遠くないうちに彼の心は崩壊し、計画は実行されますよ。
殺された本人はもちろん、殺した家臣達でさえ、我々の存在をつゆとも疑いはしないでしょう」
「にゃー(だな。それが秘密組織、『天罰遂行部』のやり方だものな。
自らは手を下さず、遠回りに対象を始末する。
自分達で手を下せば、他の神様にばれてしまい、口うるさく言われるからな)」
「ええ」
「肉球魔王は、我々の計画を2度も妨害した」
「彼には別の計画の実行犯をさせた事もありましたが、それは昔の話。
彼が我々に気づいているとは思わないが、念の為。念の為ですよ」
別の計画というのは、ワルサー皇帝を始末した時の話か。
「にゃー(だな。可能性は潰さないとな)」
「ええ……ん?」
「誰か、ネコ科の神を呼んだか?」
「そんな訳あるか。いや待て、まさか、まさか貴様は……!」
もふっ。
神の1体の膝の上に居た俺の、首根っこが掴まれる。
「肉球魔王だと?! 何故だ……何故バレた?!」
「証拠は一切残していない! それどころか我々の存在は誰にも知られていなかったはずなのに……?!」
そう。
こいつら、証拠は一切残さない。
普通なら絶対に、こいつらは疑われない。
「にゃー(星座は、知らなければ見えないし分からない。
お前たちの組織は、その存在を疑わなければ、決して上司までたどり着く事は出来ない。
何せ実行犯は、新人女神やイヴォンヌのように、自分が都合良く動かされていると自覚していない奴らだからな)」
「貴様、どうやって我々にたどり着いた?!」
「にゃー(俺は100年分過ごす間に、古今東西の小説、ゲームの主人公やボスが使う技を流し読みした。
そして、今ではそれらを全て使う事が出来るし、それらに対する対策も用意している。
お前らのような、自ら手を下さず、それどころかその存在すら匂わせずに優秀な配下に計画を任せるラスボスだって知っているぞ)」
彼らの手口は、シャーロック・ホームズに出てくるモリアティ教授のそれと類似していた。
ロンドンの凶悪犯罪は全て、犯罪のナポレオン皇帝と呼ばれる彼に繋がっているという。
神々の下す天罰や粛清は、全て『天罰遂行部』に繋がっているのだ。
「くそっ、人間の創造物は定期的に葬っていたが、まさか我々に繋がるヒントが残っていたとは……!」
「ですが、1人で来たのは失策でしたね」
「今の肉球魔王にはホムンクルスの護衛も居ない。
ここで葬っても、誰も気づかない」
俺を掴んでいた神が、俺に【腐食】のスキルを流し込んできた。
が、そんな物、俺には効かない。
「にゃー(俺にスキルを通したければ、闇のヴェール能力の対策をするんだな)」
俺は『クリスタル宝珠を所持していなければ一切ダメージを与えられず、スキルも通用しない』闇のヴェール能力を【肉球魔王様】称号に付与している。
「馬鹿め、それで勝ったつもりか!
我の指輪の宝石を見るがいい!」
「にゃー(なっ?! それはクリスタル宝珠?!)」
「貴様の対策など、万全に決まっている!
魂ごと腐り果ててしまえっ!」
「にゃー(ぎゃぁぁぁああああ?! ……なーんちゃって)」
彼の【腐食】スキルは、全て彼の上司、この組織のボスに流してやった。
俺は、首輪PCを起動し、天罰の神の映像を流す。
ただ今、絶賛悶え苦しんでいる最中だ。
おっ、倒れた。
「ぱ、パニッシ様ぁあああ?!」
「にゃー(自分のスキルで尊敬する上司を葬る気分はどうだ?
信頼する部下からこんな仕打ちを受けるなんて、さぞかし辛いだろうなぁ)」
天罰の神は、ハーディス様の所へ召されたようだ。
「こ、こ、こここ、この外道め!」
俺は床に投げられたが、くるりと着地した。
「にゃー(さて、お前たちの組織の支部が1695あったが、そっちは先程ホムンクルスに命じて潰させた。
もう神の気まぐれで、天罰と称したストレス解消はさせないぞ?)」
俺がわざわざ4属性ゴーレムに負けさせたのも、イヴォンヌに横槍を入れさせたのも、こいつらを集めるためだった。
マック君の仇討ちのため、だ。
組織を潰すだけならここまで回りくどいことをする必要もなかったのだがな。
俺の個人的な復讐心を満たすためだけに、当時マック君を葬るように差し向けたこいつらを、今ここで始末する。
ホムンクルス達が、俺の四次元空間へと戻ってきた。
「にゃー(1000年前にスライムの転生者を差し向け、マック君を葬ったお前らには、俺が直々に天罰を下してやろう)」
3体の神が震え上がる。
このあと滅茶苦茶痛めつけてやった。
ハーディス様に、3体の魂が凹みすぎて修復出来ないと怒られた。
◇ ◇ ◇ ◇
・魔獣都市マタタビ 宿屋
既に日は沈んでいる。
魔獣都市マタタビは、ネコ科魔獣の活気に溢れていた。
俺は宿屋へと戻る。
「おかえりなさい。野暮用は終わりましたか?」
『ああ』と刻む。
「では、出発しましょう」
ヨツバは、ナンシーさんへ挨拶を済ませる。
そして俺とヨツバは、近未来都市へと旅行へ向かった。
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