329.【後日談】サバさんと宿屋


早朝、ナンシーさんの1日が始まる。

料理の仕込みを行い、その後洗濯を開始する。


以前なら洗濯だけで2時間はかかっていた。

だが、ヨツバが全自動洗濯魔道具を宿屋に導入してからというもの、洗濯物を干すだけでよくなったので非常に楽になった。


洗濯魔道具が洗濯物を洗う間、ナンシーさんは暇つぶしに新聞を読む。



「みゃおー(おはようございます)」


「あら、サバさん。おはよう」



視線を少しだけ寄越した後、ナンシーさんは再び新聞を読み始める。

ひょい。サバさんは広げた新聞の上に乗る。



「みゃう(もっと私を見てください! 構ってください!)」


「邪魔よ」



サバさんは首根っこを掴まれ、俺の傍に置かれた。



「猫さん、この子と遊んであげて?」


「みゃん(嫌です! ナンシーさんの方が良いです!)」


「にゃー(あまりナンシーさんに迷惑かけるな)」



再びナンシーさんの方に向かおうとしたサバさんを、後ろからがっちりホールドする。

フカフカだぜ。



「みゃうー(猫又様、離してください! 私はどうしても行かねばならぬのです!)」


「にゃー(だからナンシーさんの邪魔するなってば)」


「あらあら。仲良しさんね」



サバさんはしばらくジタバタしたが、観念して眠ってしまった。

俺も、もうひと眠りしよう。


サバさんを枕にして眠る。

おやすみなさい。



◇ ◇ ◇ ◇



夜の宿屋。人間が寝静まる時間。


サバさんの目は冴えていた。



「みゃーう(うーむ、眠れません)」


「にゃー(だからってナンシーさん達を起こすなよ?)」


「んみゃお(それは怒られますから、しません)」



眠れないサバさんのために、一緒に宿屋の探検をすることにした。



◇ ◇ ◇ ◇



ここは台所。サバさんは、貯蔵庫の扉を恨めしそうに見る。



「みゃーん(あれを開くことが出来たら、エサが食べ放題なのですが)」


「にゃー(太るぞ)」



サバさんが扉を飽きるまでガリガリした後、俺達は別の場所へ向かう。



◇ ◇ ◇ ◇



ここはロビー。

といっても貴重品は管理人室で保管しているので、ここに金目の物はない。


サバさんは、椅子の上の座布団に乗る。



「みゃあ(これは良いクッションです! ちょっと拝借)」


「にゃー(おい、自分の寝床に持っていこうとするんじゃない)」



座布団に噛みつき、運ぼうとするサバさんを注意する。



◇ ◇ ◇ ◇



ここは客室前。

お客の9割は、遠方から来た人間達だ。


ほとんどの客は寝ているが、灯りが点いた部屋もたまに見られる。


中からガチャ、ガチャ聞こえるこの部屋は、マック君とパーシー君の部屋だ。



「みゃー(この音は何でしょう)」


「にゃー(タイプライターで文字を打ってるんじゃないか?)」



仕事が終わったのか、今度はギシギシ聞こえる。



「みゃー(この音は何でしょう)」


「にゃー(プロレスごっこでもしてるんじゃないか?)」


「みゃう(プロレス? 何でしょうそれは、見てみたいです!)」


「にゃー(やめい)」



部屋の扉をガリガリしようとするサバさんを止めて、俺達は管理人室へ戻ることにした。

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