312.【後日談】サバさん
翌日。
俺はナンシーさんの宿屋の管理人室で、のんびりくつろいでいた。
「ネル、ヨツバ。今日こんな手紙が届いたのだけど」
「なになにー?」
「とうとう来ましたか」
ナンシーさんが、手紙を床に広げる。
ネルとヨツバは座って手紙を覗き込む。
俺も手紙を見てみる。
『ナンシー殿へ。世話をする魔獣の決定のお知らせ。
あなたが世話をする魔獣が決定したので、報告いたします。
今日の午後、魔獣が向かう予定です。
魔獣情報:3kg、サバトラ、他の特記事項なし
仲良くしてください。
魔獣幹部ゾンビキャットより』
「シャムのご両親にも、同じような手紙が来たらしいわ。
ネルとヨツバには来なかったかしら?」
「来てないよー」
「ないですね」
ネル、ヨツバは俺がバッジを渡しているから、魔獣の世話の義務は免除されている。
当然手紙も来ない。
でもナンシーさん、パーシー君、シャムと彼女の両親にはバッジを渡していない。
肉球印の付いた安全ピンタイプの缶バッジ。
通称、肉球魔王公認バッジ。
今生きているネル達の
際限なく渡すとキリが無いからな。
ナンシーさん達にもあえてバッジを渡さず魔獣の世話をさせるのは、近所の人たちとの交流も考えてのことだ。
特別扱いすることで、かえってのけ者にされる可能性があるからな。
何でもかんでも特別扱いするのが良いってわけじゃない。
「みゃう~(ごめんくださーい。今日からお世話になりまーす)」
お、魔獣が来たか。
というかこの声は……
ネルが宿屋のドアを開ける。
「みゃお!(ややっ! これは猫又様!)」
「にゃー(長老猫じゃないか)」
サバトラの猫、長老猫が宿に入ってきた。
そういえば、この都市では普通の猫とネコ科魔獣の区別をつけていなかったな。
冒険者ギルドがあった時代では、体内魔石の有無や人間への影響度、スキル所持の有無なんかで区別をつけていたらしいが。
「あら、この子の首輪に手紙が巻き付けてあるわ。
『ナンシー殿へ。担当魔獣です』ですって。
つまり、この子の世話をすればいいのかしら」
「わーい! 猫さんのお友達が増えたー!」
「名前は、サバトラだから、サバさんでどうでしょう」
「勝手に名前つけてもいいのかしら」
「みゃうん(おおっ! 名前!
飼い猫の特権! ありがたいです)」
ちなみに長老猫は、人間の話し言葉がだいたいわかる。
伊達に長老と呼ばれていない。
いや、今では俺だけしか呼んでいないのかもしれないが。
こうして、長老猫はサバさんとして、宿屋に住むことになったのだった。
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