279.【後日談】【クロスオーバー】樽詰めにゃんこ


翌日。バイト2日目。

俺は持参した木箱から出る。


それからあくびしながら、メールボックスを覗く。


『新着メールが299件あります』


メールを1件ずつ見ていくが、全部迷惑メールだった。


ダンジョンマスターの苦情や要望対応をするのがバイトの内容なので、それらが無い今、何もすることが無い。


とはいえ。



「にゃー(俺は出かけるぞ)」


「ん、いってらっしゃい」



ダンジョンマスターの命君はゲームをしながら答えた。


エレベーターがあったので、それに乗って1階層に降りた。

ちなみにダンジョンマスター君が居た場所が10階層だ。

このダンジョンは、縦に積み重なった塔のような形をしているらしい。



◇ ◇ ◇ ◇



外でトイレを済ませ、俺は【強化探索】を使用する。


探索対象は、昨日に続き迷惑メールの原因となったダンジョンマスターの五島亜理子だ。

説教してやる。


ふむ、こっちの方向か。


四次元ワープで、目的地へ向かった。



◇ ◇ ◇ ◇



俺は、木製の船の上に着地した。

どうやらこの船、空を浮かんでいるらしい。


見まわして見ても、男ばかりで目的の五島亜理子が居ない。

名前からして女だろう。

この船のどこかに居るはず。


てくてくと歩き、端に積んである樽を見つけた。

果実が詰まっている。


よく見ると1つ、良い感じの空き樽がある。

早速中に入ってみる。


うむ、心地よい閉塞感。



「そこの樽に、マスターが購入した果実が入っているであります」


「おお、これか! テメーら、これ全部、かしらの所に運ぶぞー!」



やば。見つかる。


俺はとっさに、デザートアプルを取り出しその中に埋もれた。



「ん? 見たことのない果実が混じっているでありますが」


「どうしやした?」


「いえ、気のせいであります。運びますよ」



俺が入った樽は、他の樽と一緒にどこかへ運ばれた。



◇ ◇ ◇ ◇



「ひゃはははは! トミタって奴は今頃迷惑メールで困っているだろうなぁ!

あー、愉快愉快」


「マスター、あまり神に喧嘩を売るのはどうかと思うであります」


「あんだぁ? 俺が負けるとでも?」



俺の入っている樽に手が突っ込まれる。

デザートアプルを掴んで、手が引っこ抜かれる。



「最近、ダンジョンバトルもマンネリ気味だから、新しい喧嘩相手が欲しかったとこだコラ。

……あぁ? 何だこれ。ピーマンみたいな果実?」



ポリポリ。



「甘っ! 美味っ! なぁ、これどこで手に入れたよ?」


「え? マスターが仕入れたでありますよね?」


「知らねーぞオイ?」



俺の入っている樽に手が突っ込まれる。

俺を掴んで、手が引っこ抜かれる。



「あぁ? 何だこれ。毛玉?」


「にゃー(こんにちは)」



いかつい男衆に囲まれ、紅一点。

眼帯を付け、つばの広い帽子を被り露出の多い黒の服を着て、サーベルを身につけた赤茶髪の女性。


そいつが五島亜理子ごとうありす、海賊船のダンジョンマスターだった。

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